位置エンコーディング (G検定)

位置エンコーディング

1. 定義と概要

位置エンコーディングとは、Transformer(現在の主要な AI モデルの構造)が単語の並び順を扱えるように、各位置に対応する数値パターンを単語埋め込みベクトルに足し合わせる仕組みです。

Transformer は、文中の単語を同じ文の中の他の単語と比べて関連度を計算する仕組みである Self-Attention(自己注意機構)を中核部品として使い、単語をまとめて処理します。

代表的な方式には2つあります。原論文(Attention Is All You Need、2017年)で採用された、周期の異なる波を組み合わせる方式と、BERT や GPT など後続のモデルで使われている、位置ごとの数値パターンを学習によって獲得する方式です。

Transformer は、単語同士の関連をまとめて計算する Self-Attention によって、単語を先頭から順に読むのではなく並列に処理します。この並列処理によって計算は速くなる一方、単語がどの順番で並んでいるかという情報は、そのままでは失われてしまうのが実情です。

「A が B を追いかける」と「B が A を追いかける」のように、同じ単語の集合でも並び順が変わると意味が変わる文があり、順序情報を別の形で補う必要が生じます。位置エンコーディングは、単語埋め込みベクトルに位置ごとの数値パターンを足し合わせることで、この順序情報をモデルに与える役割を担います。

2. 試験対策ポイント

位置エンコーディングが必要になる背景にあるのは、Self-Attention による並列処理という特性です。文中の単語を同時に処理する都合上、語順という情報はそのままではモデルに伝わりません。そこで、位置ごとに異なるパターンの数値の組を用意し、単語埋め込みベクトルに足し合わせることで順序情報を補います。この関係が、位置エンコーディングという仕組みの出発点になります。

原論文で採用されたのは、サイン波・コサイン波(一定の周期で規則的に値が上下する波の形)を組み合わせて、位置ごとに異なるパターンの数値の組を作る方式です。位置が変わるたびに周期の異なる波の値を並べることで、隣り合う位置とも遠く離れた位置とも区別できるパターンが得られます。

この方式はあらかじめ計算式で値が決まっており、学習パラメータ(訓練を通じてモデルが自動的に調整していく数値)を追加で必要としない点が特徴です。加えて、訓練時より長い文にも対応しやすいという利点もあります。

一方、BERT や GPT など後続のモデルでは、位置ごとの数値パターンを学習パラメータとして獲得する学習型の方式が広く使われています。2つの方式の違いを並べると、次のように整理できます。

方式 位置ごとの数値の決め方 学習パラメータ 主に使われている場面
サイン波・コサイン波方式 あらかじめ決まった計算式で求める 追加で必要としない 原論文(Attention Is All You Need、2017年)
学習型 訓練を通じて獲得する 位置ごとのパターンとして持つ BERT や GPT など後続のモデル

原論文自体もこの学習型を試し、サイン波方式と同程度の結果を確認したうえで、長い文への対応のしやすさからサイン波方式を採用したという経緯です。サイン波方式と学習型、この2方式をセットで整理しておきたいところです。

なお、位置エンコーディングは Transformer という構造の一部品にあたります。Transformer 全体の構成や Self-Attention の計算の詳細は別のテーマとして扱われるため、ここでは語順を補う役割に絞って整理します。

3. 関連概念との比較・相違点

位置エンコーディングを用いない Transformer との最大の違いは、順序情報の有無です。位置エンコーディングを外すと、Self-Attention は単語どうしの関連だけを見て並び順を区別できなくなり、語順の違いで意味が変わる文を正しく扱えなくなります。単語の集合としては同じでも、並び順によって意味が入れ替わる文を見分けられるかどうかが、両者の分かれ目です。

RNN(再帰型ニューラルネットワーク。文章などの系列データを先頭から順番に読み進めて処理するニューラルネットワーク)との最大の違いは、順序情報の扱い方にあります。RNN は単語を先頭から1つずつ順番に処理するため、その処理の順序自体に位置情報が自然に組み込まれる仕組みです。

一方、Transformer は全単語を並列に処理するため、位置エンコーディングという形で順序情報を明示的に足し合わせる必要があります。順序を処理の手順に委ねるか、数値として別に用意するかという設計の違いです。

4. ビジネス・実務での活用シナリオ

機械翻訳や多言語対応サービスでは、語順の異なる言語間でも文中の単語の並びを正しく捉えられる基盤になります。日本語と英語のように語順が大きく異なる言語のペアでも、単語の並び順の情報が保たれるため、文法的に自然な訳文を生成できる仕組みです。

チャットボット(文字や音声でユーザーとやり取りする自動応答プログラム)や対話 AI では、ユーザーの発話や会話履歴に含まれる単語の順序関係を保ったまま処理できます。発言の前後関係を取り違えずに読み取れることが、文脈に沿った応答を組み立てるうえでの土台です。

文章要約や生成 AI ツールでも、位置エンコーディングは元の文章の展開順序を崩さずに要点を抽出するための仕組みです。生成の場面でも、自然な語順で文章を組み立てるうえで欠かせない役割を果たします。

5. 要点まとめ

  • 位置エンコーディングは、Transformer が並列処理によって失う単語の並び順の情報を、位置ごとの数値パターンを埋め込みベクトルに足し合わせて補う仕組みです。
  • 原論文(Attention Is All You Need、2017年)ではサイン波・コサイン波を使う方式が採用され、その後 BERT や GPT など学習によって位置情報を獲得する方式も広く使われています。
  • RNN は処理の順序そのものに位置情報が組み込まれるのに対し、Transformer は並列処理のため位置エンコーディングを明示的に足し合わせる点が対照的です。

6. 確認問題

問1Transformer は文中の単語を並列に処理する仕組みのため、単語埋め込みだけでは語順の情報を表現できない。

解答・解説をみる

○ 正しい

Self-Attention による並列処理そのものが、位置エンコーディングを導入する理由になっています。単語を同時に処理する都合上、並び順の情報は単語埋め込みだけでは表現できません。

問2Attention Is All You Need の原論文では、位置エンコーディングとしてサイン波・コサイン波を組み合わせる方式が採用された。

解答・解説をみる

○ 正しい

位置ごとに周期の異なる波の値を組み合わせ、単語埋め込みベクトルに足し合わせる発想が、2017年の原論文で採用された方式の核心です。学習パラメータを追加せずに済む点も特徴です。

問3位置エンコーディングの方式は原論文のサイン波・コサイン波方式のみであり、後続のモデルでも位置情報を学習によって獲得する方式は使われていない。

解答・解説をみる

× 誤り

実際には BERT や GPT など後続のモデルで、位置ごとの数値パターンを学習パラメータとして獲得する学習型の方式が広く使われています。正しくは、サイン波方式と学習型の2方式が並存しているという関係です。原論文自体も学習型を試し、サイン波方式と同程度の結果を確認したうえで、長い文への対応のしやすさから最終的にサイン波方式を選んでいます。