Keras (G検定)

Keras

1. 定義と概要

Kerasとは、少ないコード量で直感的にディープラーニングのモデルを構築・訓練できる高水準APIです。Pythonで書かれ、単体では動かず、TensorFlowなどの計算エンジン(バックエンド。裏側で実際の計算処理を担当する仕組み)の上で動作する点が特徴になります。フランソワ・ショレ(Francois Chollet)が開発し、2015年3月に公開されました。

2015年3月の公開当初、Kerasが動作の土台にしていた計算エンジンは、Theano(モントリオール大学で開発された数値計算ライブラリ)の1つだけでした。同年の終わりごろにTensorFlowが、2017年にはCNTKが選択肢に加わり、複数の計算エンジンを切り替えて使えるマルチバックエンド(複数のバックエンドを選べる構成)のライブラリになりました。

ディープラーニングの実験や試作を素早く行いたいという需要から、簡潔で読みやすいコードで書けることを重視して設計されています。計算の細部を書き下すよりも、層を積み上げる感覚でモデルの構造を表現できる書き味が、この設計思想のあらわれです。

2017年にTensorFlow 1.4へ公式の高水準APIとして統合されると、TensorFlow内蔵の呼び名である「tf.keras」が使われる場面が主流になりました。2019年のTensorFlow 2.0では、この「tf.keras」が標準の高水準APIと位置づけられています。

2. 試験対策ポイント

まず整理したいのは、Kerasの位置づけです。TensorFlowのような計算エンジンの上に乗る高水準APIであり、低水準API(計算の細部まで自分で記述する必要がある、より基盤に近い書き方)と対比して理解しておきたいところです。少ないコード量と高い可読性が特徴で、初心者や試作、いわゆるプロトタイピング(本格的な開発に入る前に、アイデアを素早く試作として形にすること)に向いています。

バージョンの変遷は、年ごとに確認しておきたいところです。時期と出来事を並べると、次のように整理できます。

時期 出来事
2015年3月 公開。当初はTheano専用の構成
2015年末〜2017年 TensorFlow・CNTKが順に加わりマルチバックエンド構成に
2017年 TensorFlow 1.4へ統合され「tf.keras」として組み込まれる
2019年 TensorFlow 2.0で「tf.keras」が標準の高水準APIに
2023年11月 Keras 3.0公開。TensorFlowから独立し、JAX・TensorFlow・PyTorchを選べる構成へ

複数のエンジンを選べる状態から、TensorFlowへの統合を経て、再び複数のエンジンを選べる状態へ戻った3段階の流れとして押さえておくと、年号の並べ替えにも対応しやすくなります。

簡潔さには、引き換えのトレードオフもあります。少ないコードで書けることは初心者や試作に向く一方、独自の複雑な処理や新しいアーキテクチャを組みたい場合には制約が生じます。訓練ループ(モデルにデータを繰り返し与えて学習させる一連の処理の流れ)を自分で書くなど、低水準の記述を補う必要が出てくる場面があります。

関連語の束としてTensorFlow・PyTorch・フレームワーク(アプリケーションやモデルを作るための土台となる骨組み・ソフトウェア群)・バックエンドをあわせて整理しておきたいところです。Kerasは、特定のフレームワークに乗って動く高水準APIという階層関係にあります。

3. 関連概念との比較・相違点

よく並べて対比される3つを、階層と設計思想の軸で整理すると次のようになります。

名称 階層・役割 設計思想の特徴
Keras 計算エンジンの上に乗る高水準API 簡潔さと分かりやすさを優先
TensorFlow 計算処理そのものを担う基盤の計算エンジン Kerasと「tf.keras」の形で統合
PyTorch 中〜低水準から記述できるフレームワーク 柔軟に組める一方でコード量は増えやすい

TensorFlowとの最大の違いは、階層にあります。TensorFlowは計算エンジンとして計算処理そのものを担う基盤であり、Kerasはその上に乗って少ないコードでモデルを組み立てられる高水準API、という関係です。両者は「tf.keras」という形で統合されていますが、役割の階層が異なる点は取り違えやすいところです。TensorFlow自体の内部構造は別のテーマとして整理した方が理解しやすい範囲になるため、ここではKerasとの関係性にとどめます。

PyTorchとの違いは、設計思想にあります。PyTorchは高水準APIというより中〜低水準からの柔軟な記述ができるフレームワークで、独自の処理を組みやすい一方、コード量は増えやすい傾向があります。Kerasは簡潔さと分かりやすさを優先した設計であり、書きやすさと制御の細かさのトレードオフとしてよく対比される関係です。

4. ビジネス・実務での活用シナリオ

教育・人材育成の分野では、少ないコードで動作を確認できる特性を生かし、社内のAI人材育成の演習や研修のハンズオンでも使われます。初学者がディープラーニングの構造に触れる入り口として機能する点が、低水準の記述にまだ慣れていない段階での学習効果を高めています。

スタートアップや企画部門では、本格的な開発に入る前の試作段階で、アイデアを素早くモデルとして形にする用途に活用されています。概念実証(PoC。本格導入の前に、実現できそうかを小さく試して確かめること)の段階でKerasを使うことで、大きな開発コストをかける前に実現可能性を確認できます。

システム開発・運用の現場では、本番運用時に「tf.keras」の形でTensorFlowの周辺エコシステムと組み合わせる場面があります。モデルを配信する「TensorFlow Serving」や、スマートフォン向けに軽量化する「TensorFlow Lite」などと連携させることで、学習から配信までを一貫して構築する体制が整います。

5. 要点まとめ

  • Kerasは、少ないコードで直感的にディープラーニングのモデルを組み立てられる高水準APIです。TensorFlowなどの計算エンジン(バックエンド)の上で動作します。
  • 2015年の公開後、2017年に「tf.keras」としてTensorFlowへ統合、2019年に標準の高水準API化、2023年のKeras 3でTensorFlowから独立し複数バックエンドに対応、という変遷をたどっています。
  • 簡潔さ・可読性は初心者や試作向きの強みですが、独自の複雑な処理には低水準の記述を補う必要がある場面があります。TensorFlow・PyTorchとの階層や設計思想の違いも、Kerasを理解するうえでの中心的な論点です。

6. 確認問題

問1Kerasは、少ないコードで直感的にディープラーニングのモデルを構築できる高水準APIである。

解答・解説をみる

○ 正しい

Kerasは計算処理を抽象化し、簡潔で読みやすいコードでモデルを組み立てられる高水準APIという位置づけが定義の核になります。TensorFlowなどの計算エンジンの上で動作する点とあわせて押さえておきたいところです。

問2Keras 3.0では、TensorFlowから独立し、JAX・TensorFlow・PyTorchといった複数のバックエンドを選べるようになった。

解答・解説をみる

○ 正しい

2023年11月に公開されたKeras 3.0で、TensorFlow専用だった状態からマルチバックエンド構成に戻った経緯を正しく押さえておきたいところです。

問3Kerasは開発当初からTensorFlow専用のライブラリとして作られており、他の計算エンジン上で動作したことは一度もない。

解答・解説をみる

× 誤り

正しくは、2015年の公開当初はTheano専用で、その後TensorFlow・CNTKが加わってマルチバックエンド構成になりました。TensorFlow専用に近い形だったのはむしろ統合後の一時期であり、順序を取り違えやすい点です。