1. 定義と概要
ナレッジ管理システム(ナレッジマネジメントシステム、KMS)とは、組織内の社員が個々に持つ知識・ノウハウ・経験(ナレッジ)を収集・蓄積し、組織全体で共有・活用できるようにする情報システムの総称です。
具体例としては、質問と回答を蓄積して検索可能にするFAQシステムや、掲示板やスケジュール管理などを備え情報共有基盤となるグループウェア(社内の情報共有やスケジュール管理を行う業務ソフトウェア)型が挙げられます。ほかにも、社内のノウハウを一元管理する専門的なナレッジ管理ツールなどがあります。
組織の知識を経営資源として活用するナレッジマネジメント(知識経営。組織内の知識やノウハウを共有し活用する経営手法です)を、ITの側面から実践するための仕組みという位置づけにあります。手法としての知識経営が先にあり、それを支える道具立てが情報システムの側にあたる関係です。
従来、専門的な知識やノウハウは個人の頭の中に留まりやすく、特定の担当者しかやり方を把握していない属人化(特定の人しか業務のやり方を把握していない状態)が課題となっていました。
この課題に対し、1990年代に一橋大学名誉教授の野中郁次郎らがSECIモデルを提唱しました。これは、個人の暗黙知(経験や勘のように言葉で説明しにくい知識)を組織の形式知(文書やマニュアルなど言葉や図で表された知識)へ変換し、新たな知識を生み出すプロセスを説明する理論です。
この理論を実践するITツールとしてナレッジ管理システムが普及し、コールセンターや製造業をはじめ幅広い業界で導入が進んでいます。
2. 試験対策ポイント
まず整理しておきたいのは、SECIモデルの4つのプロセスと、それぞれがどのような知識の変換を指すかという対応関係です。4つを変換の向きとあわせて並べると、次のように整理できます。
| プロセス | 英語表記 | 変換の向き | 内容 |
|---|---|---|---|
| 共同化 | Socialization | 暗黙知から暗黙知へ | 対面での経験共有を通じて、暗黙知を暗黙知のまま伝える |
| 表出化 | Externalization | 暗黙知から形式知へ | 対話や思考によって、暗黙知を言葉や図として言語化する |
| 連結化 | Combination | 形式知から形式知へ | 既存の形式知同士を組み合わせ、マニュアルや報告書のような体系立った知識を作る |
| 内面化 | Internalization | 形式知から暗黙知へ | 形式知を実践し、個人のスキルとして体得する |
頭文字を取ってSECIモデルと呼ばれ、この4つの円環的なサイクルが繰り返されることで、組織の知識が継続的に創造されていきます。プロセス名と内容を入れ替えた説明は取り違えやすいところなので、対応関係のまま覚えておくと安心です。
暗黙知と形式知は、SECIモデルを理解するうえで欠かせない対比です。暗黙知は経験や勘のように言葉にしにくい個人的な知識であるのに対し、形式知は文書やマニュアルとして誰もが参照できる形にした知識です。SECIモデルは、この二つの知識をたがいに変換しながら循環させることで、組織全体の知識を創造していく理論として整理できます。
ナレッジ管理システムの機能形態としては、FAQシステム・グループウェア型・専門的なナレッジ管理ツールという束を押さえておきたいところです。FAQシステムは質問と回答という限定的な範囲の共有に強く、グループウェア型は部署やチーム単位の日常的な情報共有を支え、専門的なナレッジ管理ツールは組織横断でのノウハウの一元管理に向いています。
あわせて、SECIモデルの提唱者である野中郁次郎と、その理論をまとめた著書『知識創造企業』という固有名詞の対応関係も整理しておきたいポイントです。
3. 関連概念との比較・相違点
同じ「知識」を扱う概念でも、対象と成立の背景をそろえて並べると違いがはっきりします。
| 概念 | 主に扱う対象 | 成立の背景 |
|---|---|---|
| ナレッジ管理システム | 形式知の蓄積に加え、暗黙知を言語化していくプロセス | 1990年代以降の組織経営 |
| 一般的なデータベース(DB) | 顧客情報や取引記録といった構造化された事実データ | 事実データの格納・検索 |
| 知識ベース | 専門家の判断を再現するIF-THENルール | 1980年代の第2次AIブーム |
一般的なデータベース(DB)との最大の違いは、扱う対象にあります。一般的なDBは顧客情報や取引記録といった構造化された事実データの格納・検索が中心です。これに対し、ナレッジ管理システムは形式知の蓄積にとどまらず、暗黙知を言語化・形式知化していくプロセス、つまりノウハウや経験の共有そのものまで扱う点で異なります。
知識ベース(エキスパートシステムの構成要素)との違いは、成立した背景と目的にあります。知識ベースは1980年代の第2次AIブーム(1980年代に起きた2度目のAI研究・実用化の隆盛期)に登場した概念です。専門家の判断を再現するエキスパートシステム(専門家の知識をルールとして組み込み、判断を代行するシステム)が、IF-THENルールを格納するために持つ要素でした。
一方、ナレッジ管理システムは1990年代以降の組織経営という文脈のなかで、社員の暗黙知を組織の形式知へ変換・共有することを目的に発展してきた点で異なります。同じ「知識」を扱う概念でも、生まれた時代背景と狙いが異なる点は取り違えやすいところです。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
コールセンターやカスタマーサポートの現場では、ベテランオペレーターの対応ノウハウをFAQ化し、ナレッジ管理システムに蓄積する取り組みが進んでいます。蓄積されたノウハウを新人でも参照できるようにすることで、対応品質のばらつきを抑えられます。属人化の解消と教育コストの削減という効果につながる仕組みです。
製造業では、熟練技術者が持つ勘やコツといった暗黙知を、動画マニュアルや作業手順書として形式知化し蓄積する活用が見られます。ベテランの技能を言語化・映像化して残すことは、技能継承・技術伝承の仕組みとして機能します。
コンサルティングや専門職の分野では、過去のプロジェクト事例や提案書をナレッジ管理システムに蓄積し、案件をまたいで再利用する使い方があります。ゼロから資料を作成する手間を省けるだけでなく、経験の浅いメンバーでも一定水準の提案を作成できるようになる点が、組織全体の底上げにつながります。
5. 要点まとめ
- ナレッジ管理システムは、組織内の知識・ノウハウを収集・共有・活用するための情報システムの総称であり、ナレッジマネジメントというマネジメント手法をITの側面から実践する仕組みにあたります。
- 中心理論であるSECIモデルは、共同化・表出化・連結化・内面化の4プロセスを通じて、個人の暗黙知を組織の形式知へと変換し、新たな知識を創造する循環を説明します。
- 暗黙知と形式知の違い、提唱者の野中郁次郎、FAQシステムやグループウェア型といった機能形態は、あわせて整理しておきたい論点です。
6. 確認問題
問1SECIモデルは、共同化・表出化・連結化・内面化の4つのプロセスを通じて、個人の暗黙知を組織の形式知へと変換し、新たな知識を創造していく理論である。
解答・解説をみる
○ 正しい
SECIモデルは野中郁次郎らが提唱したナレッジマネジメントの中心理論で、この4プロセスの循環によって個人の知識が組織の知識へと発展していきます。頭文字と各プロセスの対応関係をセットで押さえておきたいところです。
問2SECIモデルにおける「表出化」とは、複数の形式知を組み合わせて新たな知識を体系化するプロセスを指す。
解答・解説をみる
× 誤り
複数の形式知を組み合わせて新たな知識を作るのは「連結化(Combination)」です。正しくは、表出化(Externalization)は暗黙知を言葉や図として言語化するプロセスを指します。両者の役割を入れ替えた説明は取り違えやすい点です。
問3ナレッジ管理システムには、質問と回答を蓄積して検索可能にするFAQシステムや、社内の情報共有基盤となるグループウェア型など、複数の機能形態がある。
解答・解説をみる
○ 正しい
ナレッジ管理システムはFAQシステム・グループウェア型・専門的なナレッジ管理ツールなど複数の形態を持ち、組織の共有範囲や用途に応じて使い分けられます。

