1. 定義と概要
共分散とは、2つの変数xとyについて、それぞれのデータが平均値(データ全体を足し合わせて個数で割った値)からどれだけ離れているかを表す偏差(データから平均値を引いた差)を掛け合わせ、その平均を取った値のことです。式で表すと、共分散はxの偏差とyの偏差を掛け合わせた値をすべて合計し、データ数で割ることで求められます。たとえば、勉強時間とテストの点数のように、一方が増えるともう一方も増える傾向があるとき共分散は正の値をとり、一方が増えるともう一方が減る傾向があるとき共分散は負の値をとります。共分散の値の大きさは変数の単位によって変わるため、符号がプラスかマイナスかという点が、関係の方向を読み取る手がかりになります。
従来、2つの変数の関係をとらえる手段としては、散布図(2つの変数の値を点で描いて関係を視覚的に確認するグラフ)で確認する方法が一般的でした。この方法は関係の傾向をひと目でつかめる一方、関係の強さと方向を数値1つで表す手段が必要とされ、共分散という考え方が整備されました。
ただし共分散はデータの単位(円・センチメートル・点数など)の影響を受けるため、単位の異なるデータ同士を比較できないという課題があります。たとえば、身長(センチメートル)と体重(キログラム)の共分散を、テストの点数と勉強時間の共分散とそのまま比べても、単位が異なるため関係の強さの優劣は判断できません。
この課題を解消するために、共分散をそれぞれの変数の標準偏差(データのばらつきの大きさを表す指標)の積で割って標準化した相関係数(単位に依存せず2変数の関係の強さを-1から1の範囲で表す指標)が用いられるようになりました。
2. 試験対策ポイント
共分散の符号が持つ意味は重要な論点です。値の符号と2変数の関係は、次のように対応します。
| 共分散の値 | 2つの変数の関係 | 散布図の形 |
|---|---|---|
| 正 | 一方が増えるともう一方も増える(正の相関) | 右肩上がり |
| 負 | 一方が増えるともう一方が減る(負の相関) | 右肩下がり |
| 0に近い | 直線的な関係が弱い | 傾向が見えない |
値の大きさそのものではなく、符号が関係の方向を読み取る手がかりになります。
共分散はデータの単位に依存するため、値の大小をそのまま比較できないという限界があります。この限界を解消する関係として、共分散をそれぞれの変数の標準偏差の積で割り、単位に依存しない形へ標準化したものが相関係数です。
相関係数は-1から1の範囲を取り、1に近いほど強い正の相関、-1に近いほど強い負の相関を示し、0に近いほど直線的な関係が弱いことを示します。共分散と相関係数の関係は取り違えやすい点です。単位に依存するのはどちらの指標かという観点も、あわせて整理しておきたいところです。
複数の変数を扱う場合には、分散(データが平均からどれだけ離れているかを2乗して平均した、ばらつきの指標)と共分散を一覧にまとめた共分散行列(分散共分散行列)が用いられます。共分散行列は、多数の変数を少数の合成変数にまとめてデータの構造を把握しやすくする主成分分析(PCA)の土台になります。主成分分析では、この共分散行列から固有値・固有ベクトル(データが最もばらつく方向と、その方向へのばらつきの大きさを表す値の組)を計算します。共分散行列は機械学習分野との結び付きとしてもここで触れておきます。主成分分析は、変数の数が多いデータを扱う画像認識や自然言語処理の前処理としても用いられ、共分散行列の理解がその土台になります。
3. 関連概念との比較・相違点
相関係数との最大の違いは、単位への依存の有無にあります。共分散はデータの単位に依存し値の大小を単純比較できないのに対し、相関係数は共分散を標準偏差の積で割って標準化した指標であるため、単位に依存せず-1から1の範囲で比較できます。身長と体重の共分散と、テストの点数と勉強時間の共分散を並べても、単位が異なるため関係の強さを直接比べることはできませんが、相関係数であればどちらも-1から1の同じ物差しで関係の強さを比較できます。
分散との最大の違いは、対象とする変数の数にあります。分散は1つの変数がどれだけばらついているかを表す指標であるのに対し、共分散は2つの変数が一緒にどう変化する傾向にあるかを表す指標です。分散は同じ変数の偏差同士を掛け合わせた値の平均であり、共分散は異なる2つの変数の偏差を掛け合わせた値の平均という関係にあります。共分散は、分散の考え方を2つの変数の関係に拡張した指標として位置づけられます。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
金融・資産運用の分野では、複数の資産のリターン(運用による収益)の共分散を分散共分散行列としてまとめ、値動きが逆方向になりやすい資産を組み合わせます。逆方向に動く資産を組み合わせることで、一方の値下がりをもう一方の値上がりで補い、ポートフォリオ(保有資産の組み合わせ)全体のリスクを抑えます。共分散が負に近い資産の組み合わせほど、値動きが打ち消し合う効果が大きくなる関係にあります。
データ分析・AI開発の分野では、多数の変数を持つデータの共分散行列から主成分分析(PCA)を行い、少数の合成変数にまとめます。変数の数を絞り込むことで、次元削減(データの特徴を保ったまま変数の数を減らす処理)やデータの可視化に役立てられます。数百から数千の変数を持つ画像データや顧客データであっても、主成分分析によって少数の合成変数へ集約すれば、全体の傾向をグラフとして見渡せます。
マーケティングの分野では、広告費と売上高のように2つの指標の共分散を確認し、一方の増減がもう一方とどう連動する傾向にあるかを施策検討の手がかりにします。複数の広告チャネルの効果を数値で比較する際にも、共分散の符号や大きさが、どのチャネルが売上と連動しやすいかを見分ける材料になります。
5. 要点まとめ
- 共分散は2つの変数がそれぞれの平均からどれだけ離れているか(偏差)を掛け合わせて平均した値で、正の値は正の相関、負の値は負の相関の傾向を示します。
- 共分散はデータの単位に依存するため単純比較できず、標準偏差の積で割って標準化した相関係数(-1から1の範囲)が用いられます。
- 複数変数の共分散をまとめた共分散行列は、主成分分析(PCA)など機械学習分野の手法にもつながる論点です。
6. 確認問題
問1共分散が正の値をとるとき、一方の変数が増加するともう一方も増加する傾向にあると解釈できる。
解答・解説をみる
○ 正しい
共分散の符号がプラスであることは、2変数が同じ方向に動く正の相関の傾向を示します。負の値は逆方向に動く負の相関の傾向を示し、0に近い値は直線的な関係が弱いことを示します。
問2共分散はデータの単位に依存しないため、異なる単位のデータ同士でも値の大小をそのまま比較できる。
解答・解説をみる
× 誤り
正しくは、共分散はデータの単位に依存するため単純比較できません。この限界を解消するために、標準偏差の積で割って標準化した相関係数が用いられます。共分散と相関係数の性質を取り違える誤りです。単位に依存するのはどちらの指標かという点は、混同しやすいところです。
問3相関係数は、共分散をそれぞれの変数の標準偏差の積で割ることで求められ、値は-1から1の範囲をとる。
解答・解説をみる
○ 正しい
相関係数の定義そのものです。共分散を標準化することで、単位に依存しない-1から1の指標になり、値が1や-1に近いほど直線的な関係が強いことを示します。

