1. 定義と概要
PyTorchとは、Python向けのオープンソース(ソースコードが公開されており、誰でも利用・改変できること)深層学習フレームワークです。開発を主導したのは、Meta社の人工知能研究組織であるFacebook AI Research(FAIR。Meta社内でAIの研究開発を担う組織)です。2016年に公開されました。
前身はLua言語で書かれた機械学習ライブラリの「Torch」で、PyTorchはこれをPythonで書き直したもの(名称も「Python」と「Torch」の組み合わせに由来)です。
最大の特徴は、データを流しながら同時に計算グラフ(計算の手順を図のように表したもの)を組み立てていく設計方式(define-by-run)を採用している点です。方式そのものの仕組みは別記事に譲ります。Pythonのif文・for文といった通常の制御構文をそのままネットワークの記述に使え、通常のPythonデバッガ(プログラムを実行しながら内部の値や処理の流れを確認するためのツール)でそのまま動作確認できる書きやすさが特徴です。
深層学習フレームワークの多くは、当初、あらかじめ計算の手順をすべて定義してから実行するdefine-and-run方式が主流でした。日本のPreferred Networks(PFN)は2015年6月にChainer(PFNが開発した、define-by-run方式を提唱したフレームワーク)を公開し、この設計思想をいち早く提唱しました。しかし2019年12月にChainerの開発を終了し、開発思想が近いPyTorchへ順次移行すると発表しました。
PyTorch自体はPythonらしい書き方とデバッグのしやすさから研究分野を中心に採用が広がりました。2022年9月には、Meta単独のプロジェクトから「PyTorch Foundation」(特定企業に依存しない中立組織)へ運営が移管されました。同組織は、Linux(サーバーなどで広く使われる基本ソフト)をはじめとするオープンソースの開発を支える非営利団体「Linux Foundation」の傘下にあります。この移管により、ベンダー中立の基盤としての性格を強めています。
2. 試験対策ポイント
まず整理しておきたいのは、PyTorchの開発主体と登場の経緯です。Meta社の人工知能研究組織であるFacebook AI Research(FAIR)が2016年に公開したこと、前身がLua言語の「Torch」であったことは、固有名詞のつながりとしてあわせて整理しておきたいところです。
PyTorchがdefine-by-run方式を採用しており、Pythonのif文やfor文といった制御構文をそのままネットワークの記述に使える柔軟さは、普及の背景として押さえておきたいポイントです。デバッグのしやすさとあわせて、初学者にも学びやすいフレームワークとして語られる理由になっています。
固有名詞と年の対応は混ざりやすいため、時系列で並べて確認しておくと整理しやすくなります。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2015年6月 | Preferred Networks(PFN)がChainerを公開し、define-by-run方式を提唱 |
| 2016年 | Facebook AI Research(FAIR)がPyTorchを公開 |
| 2019年12月 | PFNがChainerの開発終了とPyTorchへの順次移行を発表 |
| 2022年9月 | 運営がMeta単独から「PyTorch Foundation」へ移管 |
このうちChainerが2019年12月に開発を終了し、PyTorchへの移行を発表した経緯は、フレームワークの系譜を理解するうえでの中心的な論点です。移行の向き(ChainerからPyTorchへ、であって逆ではない点)は取り違えやすい点です。
TensorFlow(Googleが開発した、PyTorchと並ぶ代表的な深層学習フレームワーク)との対比では、研究用途でPyTorch、産業実装でTensorFlowという語られ方があります。近年はTensorFlow側も使いやすさを高め、両者の差は縮まりつつあるとされます。単純な二分法で断定せず、両者の違いを相対的に捉えておきたいところです。2022年の運営移管によって「PyTorch Foundation」がベンダー中立の体制になったことも、フレームワークの現在地を理解するうえでの論点です。
3. 関連概念との比較・相違点
TensorFlowとの違いは、開発元・実行方式・周辺の広がり方・使われ方という複数の軸に分かれます。軸ごとに並べると、次のように整理できます。
| 観点 | PyTorch | TensorFlow |
|---|---|---|
| 開発を主導 | Meta社 | |
| 実行方式 | 公開当初からdefine-by-run方式 | 当初はdefine-and-run方式 |
| 周辺の広がり方 | 中核を軽く保ち、周辺の役割は外部ライブラリが担う | モバイル向けや推論の配信まで自ら揃える |
| 語られてきた使われ方 | 研究での柔軟さを重視 | 実務での安定した運用実績 |
実行方式の違いは、書きやすさやデバッグのしやすさとして語られる背景になっています。計算の手順を先にすべて定義してから実行する方式に比べ、データを流しながら計算グラフを組み立てる方式は、途中の値を確かめながら書き進めやすいためです。
使われ方の住み分けについては、近年は双方の使い勝手が近づいており、単純な二分法で断定することは避けたいところです。研究と実務のどちらでも、両者が選択肢として並ぶ状況になっています。
Chainerとの最大の違いは、開発の系譜にあります。Chainerは日本のPreferred Networksが開発し、define-by-run方式をいち早く提唱した先行フレームワークでした。2019年にPyTorchへの移行が発表され、開発思想を受け継ぐ形でPyTorchが後継の位置づけを担うようになりました。これはChainerが不要になったことを意味するのではなく、define-by-runという設計思想そのものがPyTorchに引き継がれた結果と捉えられます(Chainer自体の詳細は別記事に譲ります)。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
AI研究・学術分野では、新しいモデル構造を検証する論文の公開実装にPyTorchが広く使われています。define-by-runによる柔軟な記述は、モデルの構造を試行錯誤しながら組み替える研究の性質と相性がよく、論文発表後すぐに実装を追試できる土壌があります。
画像認識や自然言語処理(人間の言葉をコンピュータに処理させる技術)の開発現場では、公開済みの学習済みモデルを土台に自社データで追加学習する取り組みが広がっています。PyTorch向けに整備されたエコシステム(周辺のツールやライブラリ群)が充実していることが、開発の着手しやすさを後押しする一因です。
大規模なプロダクトの運用基盤では、「PyTorch Foundation」によるベンダー中立の運営体制のもと、Meta以外の企業でも大規模なAIモデルの学習・運用基盤としてPyTorchを採用する動きがあります。特定の1社に依存しない体制であることが、他社が基盤として採用する後押しといえます。
5. 要点まとめ
- PyTorchは、Meta(旧Facebook)の研究部門が中心となって開発を主導したPython向けの深層学習フレームワークで、2016年にTorch(Lua言語)を引き継ぐ形で公開されました。
- define-by-run方式を採用し、Pythonの制御構文をそのまま使える書きやすさとデバッグのしやすさから研究分野で広く使われるようになった経緯があります。
- define-by-runを提唱したChainerが2019年にPyTorchへの移行を発表した経緯、TensorFlowとの対比、2022年の「PyTorch Foundation」への運営移管も、あわせて確認しておきたい点です。
6. 確認問題
問1PyTorchは、Meta(旧Facebook)のAI研究部門が中心となって開発を主導した、Python向けのオープンソース深層学習フレームワークである。
解答・解説をみる
○ 正しい
PyTorchの定義そのものです。2016年にFacebook AI Research(FAIR)が中心となって公開されました。前身がLua言語の「Torch」であることも、あわせて押さえておきたい対応関係です。
問2PyTorchはdefine-by-run方式を採用しており、Pythonのif文やfor文といった制御構文をそのままネットワークの記述に利用できる。
解答・解説をみる
○ 正しい
データを流しながら同時に計算グラフを構築する方式のため、通常のPythonの書き方をそのまま使えます。デバッグのしやすさも、この方式に基づく利点の一つです。
問3Chainerを開発したPreferred Networksは、2019年にPyTorchの開発を終了し、自社のChainerへ移行すると発表した。
解答・解説をみる
× 誤り
移行の向きが逆になっています。正しくは2019年12月にPFNがChainerの開発を終了し、PyTorchへ順次移行すると発表しました。開発の系譜を確認するときに混同しやすいところです。

