1. 定義と概要
重回帰分析とは、2つ以上の説明変数を用いて1つの目的変数を予測する統計的手法です。予測の中身は、各説明変数に回帰係数(その説明変数が目的変数にどれだけ影響するかを示す重み)を掛けて足し合わせた値として表されます。この足し合わせた値に、切片(すべての説明変数が0のときの基準値)と誤差項(回帰式では説明しきれない、実際の値とのズレの部分)を加えたものが、重回帰分析の予測式の全体像です。
たとえば、出店を予定している小売店舗の売上高を、その地域の人口・店舗面積・販売品目数という複数の説明変数から予測する場面で使われます。地域の人口が多いほど来店見込みが増え、店舗面積が広いほど陳列できる商品数が増えるというように、それぞれの説明変数が売上にどれだけ影響しているかを回帰係数として数値化できる点が特徴です。
1つの説明変数だけで目的変数を予測する単回帰分析(説明変数が1つだけの回帰分析)では、現実のビジネス事象の多くを説明しきれません。売上や価格のような結果には複数の要因が同時に影響することが一般的で、そこに単回帰分析の限界があります。
この課題に対応する形で、複数の説明変数を同時に扱える重回帰分析が拡張として用いられ、各要因の影響度を数値化する要因分析と、将来の値を見積もる予測分析の両方に活用されています。説明変数を1つに絞ると見えなくなる要因同士の重なりも、重回帰分析であれば同時に扱えるため、複数の要因が絡み合う事象の分析に向いた手法という位置づけです。
2. 試験対策ポイント
まず押さえておきたいのは、回帰係数の意味です。各説明変数に掛けられる重みである回帰係数は、値が大きいほどその説明変数が目的変数に与える影響が大きいと解釈されます。回帰式全体は、複数の説明変数それぞれに回帰係数を掛けて足し合わせた値に、切片と誤差項を加える形で構成されている点があわせて整理しておきたいところです。
ただし、店舗面積(平方メートル)と人口(人)のように単位が異なる説明変数同士では、回帰係数の値をそのまま比べても影響の強さを判断できません。単位をそろえて比較するには標準化偏回帰係数(各説明変数の単位を統一してから比較できるようにした回帰係数)を用いるという点も、試験で扱われる論点です。
重回帰分析に特有の注意点として、多重共線性(説明変数同士が似た動きをして相関が強すぎる状態)が論点になります。説明変数同士の相関が強いと回帰係数の推定が不安定になる現象で、判定にはVIF(分散拡大係数。多重共線性の強さを数値で判定する指標)が使われます。目安として、VIFが10以上であれば多重共線性が認められ、5以上であれば疑われるとされます。
店舗面積と売場面積のように似た情報を示す説明変数を同時に投入すると、多重共線性が生じやすくなります。多重共線性そのものの仕組みや対処法は、関連記事でより詳しく扱う範囲です。
モデルの当てはまりの良さを表す指標に決定係数(回帰モデルがデータをどれだけうまく説明できているかを0から1で表す指標)があります。決定係数には、説明変数を増やすほど見かけ上大きくなる性質があり、単純な比較には注意が必要です。効果の薄い説明変数を追加しただけでも決定係数は下がりにくいため、変数の数を加味して補正した自由度調整済み決定係数(説明変数の数を増やしただけで見かけ上大きくなる決定係数の欠点を補正した指標)で評価する点が重要な論点です。
単回帰分析との対比では説明変数が1つか複数かという違いに加え、要因分析と予測分析という2つの用途の違いが混同しやすい点として整理されます。
3. 関連概念との比較・相違点
単回帰分析との最大の違いは、説明変数の数にあります。単回帰分析は説明変数1つで目的変数との単純な直線関係を捉える手法であるのに対し、重回帰分析は複数の説明変数を同時に扱い、より現実に近い要因分析や予測を可能にします。単回帰分析で捉えられるのは1つの要因と結果の関係にとどまりますが、重回帰分析では複数の要因が結果にどう影響しているかを同時に見積もれます。
店舗の売上高を人口だけから予測すれば単回帰分析にとどまりますが、そこに店舗面積や販売品目数を加えた時点で重回帰分析になるという整理です。両者の違いを観点ごとに並べると、次のように対応します。
| 観点 | 単回帰分析 | 重回帰分析 |
|---|---|---|
| 説明変数の数 | 1つ | 2つ以上 |
| 捉えられる関係 | 1つの要因と結果の単純な直線関係 | 複数の要因が結果に与える影響を同時に見積もる |
| 多重共線性 | 説明変数が1つのため生じない | 特有の注意点として生じる |
| 向く場面 | 単純な二変数の関係を確認したいとき | 複数の要因が絡み合うビジネス事象 |
扱いたい事象の複雑さによって、単純な二変数の関係を確認したいときは単回帰分析、複数の要因が絡み合うビジネス事象を扱う場面では重回帰分析が選ばれるという関係にあります。
多重共線性との関係で見ると、これは重回帰分析に特有の課題という位置づけです。単回帰分析は説明変数が1つしかないため、説明変数同士の相関という問題自体が生じません。
説明変数を増やすことで予測の精度を高められる一方、増やした説明変数同士の相関が強くなると、回帰係数の推定が不安定になる多重共線性が生じやすくなります。判定にはVIFが用いられ、目安として10以上で多重共線性が認められます。多重共線性そのものの仕組みや具体的な対処法については、関連記事で扱う範囲としています。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
小売・マーケティングの分野では、出店を予定している地域の人口・店舗面積・販売品目数といった複数の要因から売上高を予測し、出店計画や販売戦略の意思決定に活用されています。人口だけを見て出店を決めると、店舗面積や取扱品目の違いによる売上への影響を見落としてしまいます。複数の説明変数を同時に扱う重回帰分析であれば、こうした要因の重なりを踏まえた精度の高い予測が可能になります。
不動産の分野では、築年数・駅からの距離・専有面積といった複数の要因から物件価格を予測し、査定モデルとして活用されています。同じ立地でも築年数や面積によって価格は大きく変わるため、単一の要因だけで査定すると相場からかけ離れた金額になりかねません。複数の要因を同時に扱う重回帰分析が、査定額の精度と一貫性を支えています。
人事・人材の分野では、勤続年数・役職・保有資格といった複数の要因から給与水準や離職リスクを予測し、要因分析に活用されています。どの要因が給与や離職に強く影響しているかを回帰係数から読み取ることで、処遇の見直しや人材施策の優先順位づけにつながります。単一の要因だけで判断すると見落としがちな要因間のバランスを、重回帰分析であれば数値として比較できます。
5. 要点まとめ
- 重回帰分析は2つ以上の説明変数から1つの目的変数を線形結合(各説明変数に係数を掛けて足し合わせる計算)で予測する手法で、単回帰分析の拡張にあたります。
- 説明変数同士の相関が強い多重共線性はVIF(目安10以上)で検知され、重回帰分析特有の注意点として扱われます。
- モデルの当てはまりは決定係数で測りますが、説明変数を増やすと見かけ上上昇するため自由度調整済み決定係数で評価します。
6. 確認問題
問1重回帰分析は、1つの目的変数を2つ以上の説明変数を用いて予測する統計的手法である。
解答・解説をみる
○ 正しい
重回帰分析の定義そのものです。説明変数が1つの単回帰分析に対し、重回帰分析は複数の説明変数を線形結合して目的変数を予測します。
問2重回帰分析における多重共線性とは、説明変数同士の相関が強く、回帰係数の推定が不安定になる現象を指す。
解答・解説をみる
○ 正しい
多重共線性の定義そのものです。判定にはVIF(分散拡大係数)が使われ、目安として10以上で多重共線性が認められます。
問3重回帰分析では、説明変数の数を増やすほど決定係数は必ず低下するため、変数を増やすほどモデルの当てはまりは悪化すると判断できる。
解答・解説をみる
× 誤り
正しくは逆で、決定係数は説明変数を増やすほど見かけ上大きくなる、少なくとも低下しない性質があります。そのため変数の数を加味して補正した自由度調整済み決定係数でモデルの当てはまりを評価します。

