信頼性を備えたAIのための倫理ガイドライン (G検定)

信頼性を備えたAIのための倫理ガイドライン

1. 定義と概要

信頼性を備えたAIのための倫理ガイドライン(Ethics Guidelines for Trustworthy AI)とは、AI HLEGが公表した指針です。AI HLEG(High-Level Expert Group on Artificial Intelligence)とは、欧州委員会が設置した、AI分野の専門家が集まる会合の略称です。この専門家会合は2019年4月8日に最終版を公表しました。

信頼性のあるAI(Trustworthy AI)は「適法(lawful)」「倫理的(ethical)」「頑健(robust)」の3要素を満たすべきだとしています。これら3要素の土台には、人間の自律性の尊重・危害の防止・公正性・説明可能性という4つの倫理原則があります。説明可能性とは、AIがなぜその結論を出したのかを、人が理解できる形で示せることです。ガイドラインは、この4原則をAIのライフサイクル全体にわたる7つの具体的な要求事項に落とし込んでいます。

AI倫理をめぐっては、2017年のアシロマAI原則のように、研究者や産業界が主導する民間発の宣言が先行していました。これに対し欧州委員会は2018年12月にAI HLEGによる草案を公表し、500件を超えるパブリックコメントを経て、2019年4月8日に最終版として本ガイドラインを公表しています。

法律のような強制力を持たず、AI開発者や提供者が自主的に参照する非拘束的な指針(ソフトロー。法律のような強制力は持たないが、実務上の目安として機能するルールのこと)として設計されている点が特徴です。実務での点検を助ける道具立てもあわせて用意されています。ALTAI(Assessment List for Trustworthy AI)とは、7つの要求事項を実務でチェックするための評価リストの略称です。

2. 試験対策ポイント

まず整理したいのは、信頼性のあるAIの3要素(適法・倫理的・頑健)と、その土台となる4つの倫理原則の対応関係です。4つの倫理原則とは、人間の自律性の尊重、危害の防止、公正性、説明可能性を指し、これらの原則を土台として3要素が成り立っています。

ガイドラインの骨格は、次の3つの層が積み上がった形で理解すると迷いにくくなります。

層 中身
信頼性のあるAIの3要素 適法・倫理的・頑健
4つの倫理原則 人間の自律性の尊重・危害の防止・公正性・説明可能性
7つの要求事項 4原則をAIのライフサイクル全体にわたる具体的な要求に落とし込んだもの

3要素と4原則の関係は、7つの要求事項がどこから導かれたものかを示す枠組みです。

7つの要求事項のうち、①人間の主体性と監視、②技術的な頑健性(ロバストネス。誤作動や不正な操作があっても安定して動き続けられる性質のこと)と安全性が前半にあたります。続く③はプライバシーとデータガバナンス(データの収集・利用・管理のルールを組織として整えること)です。

後半は④透明性、⑤多様性・無差別・公平性、⑥社会・環境の幸福、⑦アカウンタビリティ(説明責任。AIの動作や判断について説明し、その結果に責任を持てる状態のこと)で構成されています。

策定主体がAI HLEGという専門家会合であること、法的拘束力を持たない非拘束的な指針である点は、法規制であるGDPR(EU一般データ保護規則。個人データの取り扱いをEU域内で規律する法律です)との違いとして取り違えやすい点です。指針という性格上、AI開発者や提供者にとっては強制されるものではなく、自主的に参照する立ち位置にあります。

3. 関連概念との比較・相違点

アシロマAI原則との違いは、策定主体にあります。アシロマAI原則は2017年に研究者や産業界が主導して策定した民間発の23原則であるのに対し、本ガイドラインは欧州委員会が設置した専門家会合による政府主導の指針です。

人間中心のAI社会原則との違いも、策定主体の違いに表れます。人間中心のAI社会原則は日本政府(内閣府)が2019年3月に策定した国内向けの原則で、本ガイドラインはほぼ同時期にEU側の専門家会合が公表した指針です。

AIに関する理事会勧告と対照的なのは、策定単位の広さです。AIに関する理事会勧告はOECD加盟国等による政府間の勧告(2019年5月採択)である一方、本ガイドラインはEU単独の専門家会合による指針にとどまります。

GDPRとの間で際立つのは、拘束力の有無です。GDPRは違反した事業者に制裁金が科されるEUの法規則であるのに対し、本ガイドラインは法的拘束力を持たない非拘束的な指針にすぎません。

ここまでの違いを、誰が作ったかと、どのような性格の文書かの2軸で並べておきます。

名称 策定主体 性格・拘束力
信頼性を備えたAIのための倫理ガイドライン 欧州委員会が設置した専門家会合(AI HLEG) 2019年4月8日公表の非拘束的な指針
アシロマAI原則 研究者や産業界(民間主導) 2017年に策定された民間発の23原則
人間中心のAI社会原則 日本政府(内閣府) 2019年3月策定の国内向けの原則
AIに関する理事会勧告 OECD加盟国等 2019年5月採択の政府間の勧告
GDPR EU 制裁金を伴う法規則(法的拘束力あり)

策定主体が異なる3つの原則・勧告と、拘束力が異なるGDPRを合わせて見ることで、本ガイドラインの立ち位置がつかみやすくなります。

4. ビジネス・実務での活用シナリオ

AI開発・システムインテグレーション(複数のシステムを組み合わせて一つの仕組みに統合する事業のこと)の現場では、AI開発企業が評価リストALTAIを用いて、開発中のAIシステムを7要求事項に沿って自己点検します。7項目を横断的に確認する過程で、公平性やプライバシーへの配慮漏れを開発の早い段階で洗い出せる点に意義があります。

グローバル企業のガバナンス整備という観点では、欧州で事業を展開する企業が本ガイドラインを参考に、社内のAI倫理原則や審査体制を整備しています。EU域内の顧客や規制当局に対して、独自の物差しではなく国際的に参照されている指針に沿っていることを示せる点は、信頼確保につながる要素です。

採用・人事領域では、AI採用選考ツールを導入する企業が、透明性や公平性の要求事項を踏まえて、選考結果の判断根拠を説明できる資料を用意しています。応募者から選考基準の説明を求められた際に、恣意的でない判断過程を示せるかどうかが、企業の信頼性を左右します。

5. 要点まとめ

  • 信頼性を備えたAIのための倫理ガイドラインは、欧州委員会が設置したAI HLEGが2019年4月8日に公表した指針で、信頼性のあるAIの3要素(適法・倫理的・頑健)を7つの要求事項に落とし込んでいます。
  • 策定主体は政府主導の専門家会合であり、法的拘束力を持たない非拘束的な枠組みという性格を持ちます。
  • アシロマAI原則(民間発)、人間中心のAI社会原則(日本政府)、AIに関する理事会勧告(OECD)とは、いずれも策定主体が異なる点が特徴です。

6. 確認問題

問1信頼性を備えたAIのための倫理ガイドラインは、欧州委員会が設置した専門家会合(AI HLEG)によって2019年に公表された。

解答・解説をみる

○ 正しい

AI HLEGが2018年12月の草案・パブリックコメントを経て、2019年4月8日に最終版として公表した指針です。策定の過程で草案への改訂が加わっている点も、あわせて覚えておきたい情報です。

問2信頼性を備えたAIのための倫理ガイドラインはEUの法律として制定されており、違反した事業者には制裁金が科される。

解答・解説をみる

× 誤り

正しくは法的拘束力を持たない非拘束的な指針であり、制裁金を伴う法規則ではありません。制裁金を伴う法規則はGDPRであり、両者は混同しやすい対象です。

問3本ガイドラインが示す7つの要求事項には、多様性・無差別・公平性やアカウンタビリティ(説明責任)が含まれる。

解答・解説をみる

○ 正しい

7要求事項は人間の主体性と監視、技術的な頑健性と安全性、プライバシーとデータガバナンス、透明性、多様性・無差別・公平性、社会・環境の幸福、アカウンタビリティの一式で構成されています。