1. 定義と概要
シリアス・ゲームとは、エンターテインメント性のみを目的とせず、教育・医療・社会問題の解決など現実の課題への対応を主目的として設計されたコンピュータゲームの総称です。ゲームをクリアすることよりも、プレイを通じて現実世界での知識習得や行動変容を促す点に主眼が置かれます。
代表例の『Foldit』は、オンラインで遊べるパズルゲームです。2011年にプレイヤー集団は、サルのレトロウイルス(DNAではなくRNAを遺伝情報として持ち、細胞に感染して増殖するウイルスの一種)に含まれる酵素、プロテアーゼ(タンパク質を分解する働きを持つ酵素)の立体構造を解明しました。
コンピュータでも10年以上解明できなかったこの構造を、プレイヤー集団は約3週間で解き明かしています。この成果は学術誌に論文として発表されています。
従来、ゲームは娯楽(エンターテインメント)としての位置づけが中心でした。2002年ごろからアメリカで教育や軍事訓練、医療の分野でゲームの仕組みを応用する動きが始まり、シリアス・ゲームという呼び方が定着しました。社会課題が複雑になるにつれ、ゲームが持つ没入感や反復学習のしやすさを社会実装に活かす発想が広がってきました。
その一例が、クラウドソーシング(不特定多数の人にインターネットを通じて作業や課題を依頼する仕組み)を活用した市民科学プロジェクトです。市民科学(シチズンサイエンス)とは、専門家でない一般の人が研究プロジェクトに参加する仕組みを指します。
2. 試験対策ポイント
まず整理したいのは、シリアス・ゲームがどのような文脈で語られる用語かという点です。AIやデータの活用が社会にどう実装されていくかという流れのなかで、技術を社会課題の解決に結びつける具体例として扱われます。
取り違えやすいのは、シリアス・ゲームの定義の核心です。エンターテインメント性のみを目的としない、という部分がポイントであり、娯楽性を完全に排除するわけではありません。エデュテイメント(教育と娯楽を組み合わせ、学びながら楽しめる工夫を指す言葉)と呼ばれるように、教育効果や社会的な目的を娯楽性と両立させる設計思想である点が特徴です。
応用分野は幅広く、教育(語学学習など)、医療(リハビリや患者教育)、職業訓練・軍事シミュレーション、防災・危機管理まで及びます。防災・危機管理はクライシスマネジメント(災害や事故などの危機的な事態に備え、被害を抑えるための管理や対応の仕組み)とも呼ばれる分野です。市民科学もシリアス・ゲームが活かされる代表的な応用先の一つです。
隣接する関連用語としては、ゲーミフィケーション(学習や仕事などゲーム以外の活動に、得点やランキングといったゲームの要素を取り入れて意欲を高める工夫)が挙げられます。シリアス・ゲームとゲーミフィケーションは似て非なる概念であり、取り違えやすい点です。両者の違いは次の節で比較します。
3. 関連概念との比較・相違点
ゲーミフィケーションとの最大の違いは、対象がゲームそのものか、活動への要素付加かという点にあります。eラーニングも含めて3つを並べると、次のように整理できます。
| 用語 | 働きかける対象 | 学びの与え方 |
|---|---|---|
| シリアス・ゲーム | 目的のために作られた独立したゲームそのもの | ゲームプレイを通じた体験学習 |
| ゲーミフィケーション | 学習や業務など非ゲームの活動 | ポイントやランキングなどゲーム的な要素の付加 |
| eラーニング | デジタル教材による学習の仕組み | 教材配信による知識の伝達 |
シリアス・ゲームは教育や社会的な目的のために作られた独立したゲームそのものを指すのに対し、ゲーミフィケーションは学習や業務など非ゲームの活動に、ポイントやランキングなどゲーム的な要素を付加する手法です。ゲームという完結した体験を提供するか、既存の活動に要素だけを足すかという発想の違いが、両者を分ける軸になっています。
eラーニングとの違いは、知識伝達の仕組みか、体験そのものかという点に表れます。eラーニング(インターネットやパソコンを使ってデジタル教材で学ぶ仕組み)は知識を伝えるための教材配信の枠組みであるのに対し、シリアス・ゲームは挑戦や報酬、没入感といったゲームプレイそのものを通じた体験学習に主眼を置く点が特徴です。
一方向的に情報を届けるか、プレイヤー自身の行動や判断を通じて学びを引き出すかという設計思想の違いこそが、両者を分ける決め手だといえます。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
教育分野では、英語学習ソフト『えいご漬け』のように、反復学習をゲームのクリア構造に組み込む事例があります。単調になりがちな繰り返し学習にクリアや得点という目標を持たせることで、学習者の継続的な取り組みを引き出す仕掛けです。ゲームという枠組みそのものが、学び続ける動機づけの役割を担っています。
防災・危機管理の分野では、災害対応の意思決定シミュレーションをゲーム形式で体験させる取り組みが見られます。実際の災害現場を模した状況判断を繰り返し経験できるため、現実の危機対応力、すなわちクライシスマネジメントの育成に役立つ体験です。座学だけでは得にくい判断の勘所を、疑似体験を通じて養える点が強みです。
研究・市民科学の分野では、『Foldit』のように研究課題をパズル化し、一般のプレイヤーに開放するクラウドソーシング型のプロジェクトが生まれています。人間が得意とする直感的な空間把握の能力を、計算科学の限界を補う力として活用する試みです。専門知識を持たない人でも研究に貢献できる、間口の広さが特徴です。
5. 要点まとめ
- シリアス・ゲームは娯楽性のみを目的とせず、教育・医療・社会問題の解決を主目的として設計されたゲームの総称で、技術を社会課題の解決に結びつける具体例として扱われます。
- 代表例の『Foldit』は、2011年にプレイヤー集団がサルのレトロウイルスに含まれる酵素の立体構造を約3週間で解明した、市民科学の成功事例です。
- ゲーミフィケーション(既存の活動へのゲーム要素の付加)やクライシスマネジメント(危機管理)など、隣接する関連用語とあわせて整理しておきたいところです。
6. 確認問題
問1シリアス・ゲームは、娯楽性を完全に排除し教育効果のみを追求するために作られたゲームである。
解答・解説をみる
× 誤り
シリアス・ゲームの定義の核心は「娯楽性のみを目的としない」という点であり、娯楽性を完全に排除するわけではありません。正しくは、教育効果や社会的な目的と娯楽性を両立させる設計が特徴です。
問2『Foldit』は、プレイヤー集団がコンピュータでは長年解明できなかったタンパク質の立体構造を短期間で解明した事例として知られる。
解答・解説をみる
○ 正しい
2011年に『Foldit』のプレイヤーがサルのレトロウイルスに含まれる酵素の立体構造をおよそ3週間で解明し、学術誌に発表した事例があります。市民科学とシリアス・ゲームの結びつきを示す代表例です。
問3ゲーミフィケーションは、ゲームそのものを新たに作るのではなく、既存の活動にゲームの要素を取り入れる手法を指す。
解答・解説をみる
○ 正しい
ゲーミフィケーションは、学習や業務といった既存の活動にポイントやランキングなどのゲーム要素を付け加える手法です。ゲームそのものを制作するシリアス・ゲームとは、この点で区別されます。

