1. 定義と概要
仮名加工情報とは、個人情報保護法第2条第5項の定義により、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる、個人に関する情報のことです。氏名のような直接的な識別子を取り除きつつ、他の情報と突き合わせれば本人にたどり着ける状態は残る、という中間的な位置づけになります。
仮名加工情報を作成した個人情報取扱事業者(業務で個人情報を取り扱う会社や団体のこと)は通常、加工前の個人情報を保有しています。それに加えて、氏名などを取り除いた削除情報等(仮名加工情報を作る際に元の個人情報から取り除いた氏名などの情報や、加工方法に関する情報)も保有しているのが一般的です。削除情報等には、仮のIDと元の氏名などを結びつける対応表(仮のIDと元の氏名などを結びつけるための表)も含まれます。そのため、匿名加工情報とは異なり、仮名加工情報は原則として個人情報に該当します。
具体例として、顧客データの氏名を仮のIDに置き換え、元の氏名との対応表を安全に分離して管理した状態のデータが典型的です。仮名加工情報は、2020年に成立した個人情報保護法改正で新設された類型で、この改正は2022年4月1日に全面施行されました。
従来、個人情報を加工して活用する主な手段は匿名加工情報のみでした。匿名加工情報は、他の情報と照合しても個人を再識別できない水準まで加工する必要があり、加工のハードルの高さが課題でした。加工によってデータの具体性や有用性が下がるため、事業者による利活用も進みにくい状況にありました。
そこで2020年の改正では、イノベーションの促進とプライバシー保護の両立を図る観点から新しい類型が設けられました。第三者提供を原則禁止し事業者内部での分析用途に限定する代わりに、匿名加工情報より加工の負担を抑えつつ利用目的の変更など取扱いの一部を緩和したのが仮名加工情報の制度です。
2. 試験対策ポイント
まず整理したいのは、仮名加工情報と匿名加工情報の、個人情報への該当性の違いです。仮名加工情報を作成した事業者は、加工前の個人情報や対応表などの削除情報等を保有しています。そのため仮名加工情報は、匿名加工情報とは異なり、原則として個人情報に該当します。この該当性の違いは、匿名加工情報との比較とあわせて整理しておきたいところです。
第三者提供についても、あわせて押さえておきたい点があります。仮名加工情報の第三者提供は、個人情報保護法第41条第6項により原則禁止されています。ただし、委託(業務の一部を外部の会社に任せること)や事業の承継、共同利用(あらかじめ必要事項を公表したうえで複数の会社が同じ個人データを共同で使うこと)の場合は例外です。これらは、提供元と提供先を一体のものとして取り扱うことに合理性があるため、第三者提供にはあたりません。
緩和されている側の論点も押さえておきたいところです。変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超える利用目的の変更が、個人情報保護法第41条第9項により認められています。通常の個人情報より取扱いが緩和されている代表的な論点です。
事業者に課される義務と、通常の個人情報からは適用が除外される義務を並べると、次のように整理できます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 課される義務 | 識別行為の禁止/安全管理措置/苦情処理の体制整備 |
| 適用が除外される義務 | 漏えい等の報告義務/本人からの開示・利用停止等の請求への対応義務 |
識別行為の禁止とは、仮名加工情報を、加工前の情報や他の情報と照らし合わせて本人を特定してはいけないというルールです。含まれる連絡先を用いて本人に連絡したり訪問したりする行為も、この禁止の対象になります。あわせて、安全管理措置(情報の漏えいや紛失を防ぐために事業者が講じる対策)や苦情処理(本人からの問い合わせや苦情に対応する体制を整えること)の体制整備も義務付けられています。
3. 関連概念との比較・相違点
匿名加工情報との最大の違いは、加工の水準と第三者提供の可否です。両者の関係は、次の3つの観点で並べると輪郭がはっきりします。
| 観点 | 仮名加工情報 | 匿名加工情報 |
|---|---|---|
| 加工の水準 | 他の情報と照合しない限り個人を識別できない水準 | 他の情報と照合しても個人を再識別できない水準 |
| 個人情報への該当性 | 原則として該当する | 該当しない |
| 第三者提供 | 法令に基づく場合等を除き原則禁止 | 本人の同意なしに提供できる |
匿名加工情報は元の個人情報には復元できず、個人情報に該当しないため、本人の同意を得ることなく第三者へ提供できます。これに対して仮名加工情報は、照合すれば本人を識別できる水準の加工にとどまるのが特徴です。照合により本人を特定できる状態を残すか、完全に特定できない状態まで加工するかという到達点の差が、両者を分ける出発点になります。同じ「加工」という言葉が使われていても、提供できる範囲がまったく異なる点は取り違えやすいところです。
通常の個人情報との違いとしては、取扱いが一部緩和されている点が挙げられます。仮名加工情報も原則として個人情報として保護される対象ですが、変更前の利用目的と関連性のある範囲を超える利用目的の変更が認められています。また、漏えい等の報告義務や、本人からの開示・利用停止等の請求への対応義務が適用除外になる点も特徴的です。
ただし、安全管理措置などの基本的な義務が課される点は、通常の個人情報と共通しています。一方で、本人の同意を得ていても第三者へ提供できない点や、本人を識別する目的で他の情報と照合してはならない点は、仮名加工情報に固有の制約です。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
マーケティング・データ分析の分野では、会員データを仮名加工したうえで、当初の利用目的と関連性のある範囲を超えて社内の別部署の分析に活用する運用が想定されます。活用はあくまで社内にとどまり、第三者への提供はできません。利用目的の変更が認められているからこそ可能になる、仮名加工情報ならではの活用方法です。
製薬・医療研究の分野では、臨床データを仮名加工し、対応表を安全に分離管理したうえで研究部門が内部分析に用いる運用が想定されます。匿名加工情報ほど加工の負担が大きくないため、データの有用性を保ちやすいとされています。研究の精度を左右するデータの具体性を保ちながら、プライバシーにも配慮できる点が実務上の利点です。
AI・機械学習開発の分野では、学習用データセットを仮名加工し、社内でのモデル開発・改善に用いる運用が想定されます。外部への提供や公開はできないため、外部提供を前提とする場合は、匿名加工情報への加工が別途必要になります。加工の負担を抑えながら精度の高いデータでモデルを検証できる点は、開発現場にとって実利的です。
5. 要点まとめ
- 仮名加工情報とは、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した個人に関する情報で、2020年改正(2022年4月全面施行)で新設された類型です。
- 匿名加工情報とは異なり原則として個人情報に該当し、第三者提供は原則禁止される一方、利用目的の変更が可能になるなど取扱いの一部が緩和されています。
- 事業者には識別行為の禁止や安全管理措置などの義務が課される一方、漏えい等の報告義務や開示・利用停止等の請求への対応義務は適用除外となります。
6. 確認問題
問1仮名加工情報は、匿名加工情報とは異なり、原則として個人情報に該当する。
解答・解説をみる
○ 正しい
仮名加工情報を作成した事業者は通常、元の個人情報や対応表などの削除情報等を保有しているため、原則として個人情報に該当します。復元不可能な水準まで加工し個人情報に該当しない匿名加工情報との違いにあたります。
問2仮名加工情報は、作成前に本人の同意を得ていれば、匿名加工情報と同様に第三者へ提供できる。
解答・解説をみる
× 誤り
正しくは、仮名加工情報は法令に基づく場合等を除き第三者提供が原則禁止されており、作成前に本人の同意を得ていた場合であっても第三者提供はできません。委託・事業の承継・共同利用の場合は、提供元と提供先を一体として取り扱うため第三者提供にはあたりません。本人の同意なしに第三者提供できる匿名加工情報との違いが取り違えやすい点です。
問3仮名加工情報は、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて利用目的を変更することができる。
解答・解説をみる
○ 正しい
仮名加工情報は個人情報保護法第41条第9項により、通常の個人情報より柔軟な利用目的の変更が認められています。取扱いが一部緩和されている代表的な論点です。

