1. 定義と概要
人間中心のAI社会原則とは、統合イノベーション戦略推進会議(内閣官房長官を議長として内閣に置かれた会議体)が、2019年3月29日に決定した方針です。この会議体は、複数の司令塔会議を横断的に調整しながら、政府全体の科学技術・イノベーション政策を推進する役割を担っています。
AIはあくまで人間の能力を補い、人間の意思決定や生活の質を向上させるための道具であり、人間の尊厳や基本的人権を侵害する目的で利用してはならないという立場です。
この立場を支えるものとして、3つの基本理念(人間の尊厳が尊重される社会・多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会・持続性ある社会)が土台にあります。この理念の上に、具体的な行動指針として7つの原則(人間中心の原則・教育・リテラシーの原則・プライバシー確保の原則・セキュリティ確保の原則・公正競争確保の原則・公平性、説明責任及び透明性の原則・イノベーションの原則)が示されています。
従来、AI技術の開発・利用に関する具体的なルールは各企業や研究機関の判断に委ねられる部分が大きく、AIの負の側面への懸念が国際的に高まっていました。プライバシー侵害や、バイアス(データや設計の偏りによって、AIの判断が特定の属性に不利になってしまうこと)による差別的な判断などが、その代表例です。
日本政府はSociety 5.0(AIやIoTなどの先端技術で経済発展と社会課題の解決を両立させる、日本政府が掲げる未来社会の姿)の実現に向けてAI活用を進める一方、その基盤となる倫理的な拠り所を必要としていました。そこで統合イノベーション戦略推進会議が本原則を策定し、Society 5.0を支える価値観の土台として位置づけたという流れです。
2. 試験対策ポイント
人間中心のAI社会原則を学ぶうえでまず確認しておきたいのは、3つの基本理念と7つの原則という全体構造です。基本理念は人間の尊厳が尊重される社会・多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会・持続性ある社会の3つで、この理念の土台の上に7つの原則が置かれるという二層構造になっています。名称と数、つまり3理念・7原則という構造をあわせて押さえておきたいところです。
策定主体は統合イノベーション戦略推進会議、つまり日本政府です。海外にはアシロマAI原則(2017年に米国の研究者らの団体がまとめた、AI開発のあり方に関する23項目の民間発の原則)があります。AIに関する理事会勧告(OECD)は、2019年にOECD加盟国が合意した、国際機関としては初めてのAIに関する政府間の原則です。これらと策定した国や組織を混同しやすく、違いを取り違えやすい点です。
「人間中心の原則」は、AIに人間の判断のすべてを委ねるのではなく、人間がAIを使いこなす主体であり続けることを求める内容で、AIによる人権侵害の禁止も含みます。
「公平性、説明責任及び透明性の原則」は、AI利用における差別の防止と、アカウンタビリティ(自分の行動や判断について、理由を説明できる責任)の確保を求めています。バイアスや、AIの判断根拠を人が理解できるようにする説明可能なAIといった、AI倫理の他の論点ともあわせて整理しておきたいところです。
3. 関連概念との比較・相違点
混同されやすい3つのAI原則について、誰がいつ決めたものかを整理すると次のとおりです。
| 原則 | 策定主体 | 策定年 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 人間中心のAI社会原則 | 日本政府の統合イノベーション戦略推進会議 | 2019年 | 一国の政府が決定した官庁発の方針 |
| アシロマAI原則 | 米国の研究者らの団体 | 2017年 | 民間発の23項目の原則 |
| AIに関する理事会勧告 | OECD加盟国 | 2019年 | 国際機関発として初めての政府間合意 |
この対応関係を、以下でひとつずつ補足します。
アシロマAI原則との最大の違いは策定主体にあります。人間中心のAI社会原則は日本政府の統合イノベーション戦略推進会議が2019年に決定した官庁発の方針である一方、アシロマAI原則は米国の研究者らが2017年にまとめた民間発の23項目の原則です。官庁主導か民間主導かという違いが、両者を分ける最大のポイントといえます。
AIに関する理事会勧告との最大の違いは、策定単位です。人間中心のAI社会原則が日本一国の方針であるのに対し、OECDの勧告は2019年5月に加盟国が合意した、国際機関発として初めての政府間合意であり、5つの価値観の原則と5つの政策提言で構成されます。一国の方針か、複数国が合意した国際的な枠組みかという違いが両者を分けます。
Society 5.0との最大の違いは、扱う対象の範囲です。人間中心のAI社会原則はAI利用に関する倫理的な行動指針である一方、Society 5.0はAIやIoTなどの先端技術で経済発展と社会課題の解決を両立させる日本政府の社会像そのものを指します。人間中心のAI社会原則は、Society 5.0を支える価値観の一部として位置づけられるという関係にあります。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
人事・採用の領域では、AIによる書類選考や適性診断を導入する際に、公平性、説明責任及び透明性の原則に沿って判断根拠を説明できる設計にする例が代表的です。合否の理由を言語化できない仕組みのままでは、応募者への不当な差別が起きているかどうかを誰も検証できません。判断根拠を追跡できる設計にすることで、選考プロセスの公正さを検証できるようになります。
小売・マーケティングの領域では、購買データをAIで分析してレコメンドを行う際に、プライバシー確保の原則に沿って個人情報の取得範囲や利用目的を明示し、同意を得たうえで運用する例があります。取得目的が不透明なままデータを収集すると、顧客の信頼を損ない、利用そのものが敬遠される事態を招きかねません。目的の明示と同意取得は、AI活用を継続させるための前提条件です。
製造業の領域では、AIによる異常検知システムを導入する際に、教育・リテラシーの原則を踏まえて現場担当者がAIの判断特性を理解できる研修を行い、AI任せにしない運用体制を作る例があります。判断の仕組みを知らないまま結果だけを受け取ると、誤検知や見落としが起きたときに誰も対処できません。人がAIの特性を理解したうえで運用する体制が、現場の安全性を支えます。
5. 要点まとめ
- 人間中心のAI社会原則は2019年に日本政府(統合イノベーション戦略推進会議)が決定した方針で、3つの基本理念と7つの原則から構成されています。
- 策定主体の違いを整理すると、日本政府単独の方針が人間中心のAI社会原則、民間発がアシロマAI原則、国際機関の政府間合意がAIに関する理事会勧告(OECD)となります。
- Society 5.0が目指す社会像を実現するうえでの倫理的な土台として、人間中心のAI社会原則が位置づけられています。
6. 確認問題
問1人間中心のAI社会原則は、2019年に日本政府の統合イノベーション戦略推進会議が決定したものである。
解答・解説をみる
○ 正しい
2019年3月29日に統合イノベーション戦略推進会議が決定しました。内閣官房長官を議長として内閣に置かれた会議体で、日本政府としての方針である点も確認しておきたいところです。
問2人間中心のAI社会原則は、「Future of Life Institute」という民間の非営利団体が策定したものである。
解答・解説をみる
× 誤り
策定したのは日本政府の統合イノベーション戦略推進会議で、「Future of Life Institute」が発表したのは2017年のアシロマAI原則です。政府発か民間発かという策定主体の違いは、取り違えやすい典型例です。
問3人間中心のAI社会原則は、3つの基本理念のもとに7つの原則を掲げている。
解答・解説をみる
○ 正しい
基本理念は人間の尊厳が尊重される社会・多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会・持続性ある社会の3つです。この理念を土台に、人間中心の原則をはじめとする7つの原則が置かれるという構造になっています。

