Chainer (G検定)

Chainer

1. 定義と概要

Chainerとは、Python言語をベースにしたディープラーニングフレームワークです。日本のPreferred Networks(PFN)が開発し、2015年6月にオープンソースソフトウェア(OSS。ソースコードが公開されており誰でも利用・改変できるソフトウェア)として公開しました。

ニューラルネットワーク(人間の脳の神経回路を模した、AIの計算の仕組み)の構造を、コードを実行しながら同時に組み立てるdefine-by-run方式を、汎用のフレームワークとして世界に先駆けて採用したことで知られています。

Chainerが登場する以前、主要なフレームワークの多くはdefine-and-run方式を採っていました。計算の手順(計算グラフ。ニューラルネットワークの計算の流れを図として表したもの)をあらかじめすべて定義してから、そのあとでデータを流して計算を実行する方式です。この方式は計算の最適化がしやすい一方、条件によってネットワークの構造を変えるような柔軟な記述がしにくいという制約を抱えていました。

Chainerはこの制約に対し、計算を実行しながら計算グラフを組み立てるdefine-by-run方式を打ち出し、直感的なPythonのコードでネットワークを記述できる道を開きました。この考え方は後に、Facebook(現Meta)が開発したディープラーニングフレームワークであるPyTorchにも採用されました。現在ではTensorFlow(Googleが開発したディープラーニングフレームワーク)をはじめ、他の主要フレームワークにも広がっています。

2. 試験対策ポイント

まず押さえておきたいのは、Chainerの開発元が日本のPreferred Networks(PFN)である点です。define-by-run方式を、汎用のディープラーニングフレームワークとして世界に先駆けて採用しました。

対義にあたるdefine-and-run方式との違いは、Chainerの特徴を理解するうえでの中心的な論点です。両者は、計算グラフを組み立てるタイミングで分かれます。

方式 計算グラフを組み立てるタイミング 特徴
define-and-run 実行前にすべて定義してから流す 計算の最適化がしやすい。条件で構造を変える記述はしにくい
define-by-run 計算を実行しながら組み立てる 直感的なPythonのコードで記述できる

先に設計図を引くか、動かしながら描くかという対比です。

Chainerをめぐる時系列としてあわせて整理しておきたいのは、PFNが2019年12月にChainerの開発終了とPyTorchへの移行を発表し、現在はメンテナンスフェーズにあるという経緯です。現在も広く使われる主流のフレームワークだという理解は誤りで、正しくは、日本発の技術として後続フレームワークに影響を与えた歴史的な意義という位置づけになります。

代表的なフレームワークは、名前と開発元をまとめて確かめておきたいところです。

フレームワーク 開発元・位置づけ
Chainer Preferred Networks(PFN)発
TensorFlow Google発
PyTorch Facebook(現Meta)発
Keras TensorFlow上で使える高水準API(複雑な処理をまとめて簡単に呼び出せる窓口)

Kerasのように、他のフレームワークの上で動くものもあります。

3. 関連概念との比較・相違点

PyTorchとの最大の違いは、開発主体と現在の主流としての位置づけにあります。PyTorchはChainerのdefine-by-run方式を土台にFacebook(現Meta)が開発したフレームワークで、PFNは2019年にChainerの開発を終え、自社の研究開発基盤をPyTorchへ移行しました。

設計思想は連続していますが、開発を担う組織と、現在どちらが広く使われているかという点では違いがあります。

TensorFlow(初期バージョン)との最大の違いは、計算グラフを組み立てるタイミングにあります。初期のTensorFlowは、先に計算グラフをすべて定義してから実行するdefine-and-run方式を採っており、Chainerのdefine-by-run方式と対照的でした。

もっとも、後年のTensorFlow(2.x系)ではEager Execution(コードを1行ずつすぐに実行する動的な実行方式)が導入され、この違いは縮小しています。

4. ビジネス・実務での活用シナリオ

PFN自身の研究開発基盤としての活用が挙げられます。PFNは交通分野の自動運転(トヨタ自動車との共同研究)、製造業の産業用ロボット(ファナックとの連携)、がん診断を含むライフサイエンスの分野を重点領域として深層学習の研究開発を進めています。

2019年にPyTorchへ移行するまでの間、Chainerはこうした先端領域の研究基盤として使われていました。試行錯誤を重ねる研究では、モデルの構造を書き換えながら動かせるdefine-by-run方式の柔軟さが、そのまま開発の速さにつながります。

教育・人材育成の分野でも活用されてきました。PFNは2019年4月、Chainerを使いながら深層学習の基礎理論と実装を学べる日本語オンライン教材「ディープラーニング入門:Chainerチュートリアル」を無料公開しています。開発が終了した現在も教材としての価値が失われていないのは、define-by-run方式という考え方自体が後続フレームワークに引き継がれているためです。

既存資産の保守・移行判断も実務上の論点です。過去にChainerで構築された研究コードやプロダクションコードを保有する組織では、PFNが提供した移行ドキュメントやライブラリを参考に、順次PyTorchへ置き換える保守方針の検討が必要になります。稼働中のシステムを持つ組織にとって、開発終了後のフレームワークをいつまで使い続けるかという判断は避けて通れません。

5. 要点まとめ

  • Chainerは日本のPreferred Networksが2015年6月に公開したディープラーニングフレームワークです。計算しながら計算グラフを組み立てるdefine-by-run方式を、世界に先駆けて採用したことで知られています。
  • define-by-run方式の考え方は、後にFacebook(現Meta)発のPyTorchにも採用され、他の主要フレームワークにも広がりました。
  • PFNは2019年12月にChainerの開発終了とPyTorchへの移行を発表しており、現在はメンテナンスフェーズにある日本発の技術として、後続フレームワークに影響を与えた歴史的な意義に位置づけられます。

6. 確認問題

問1Chainerは日本のPreferred Networksが開発し、計算しながら計算グラフを組み立てるdefine-by-run方式を、汎用のディープラーニングフレームワークとして世界に先駆けて採用した。

解答・解説をみる

○ 正しい

ChainerはPFNが2015年6月に公開したフレームワークで、define-by-run方式を世界に先駆けて採用した点が特徴として整理されます。

問2Chainerは現在も、Preferred Networksによって主要な開発が継続されている、世界で最も広く使われている主流のディープラーニングフレームワークである。

解答・解説をみる

× 誤り

PFNは2019年12月にChainerの開発終了とPyTorchへの移行を発表しており、現在Chainerはメンテナンスフェーズにあります。正しくは、日本発の技術として後続フレームワークに影響を与えた歴史的な意義という位置づけで整理されます。

問3Chainerが採用したdefine-by-run方式の考え方は、後にFacebook(現Meta)が開発したPyTorchにも採用された。

解答・解説をみる

○ 正しい

PyTorchはChainerのdefine-by-run方式を土台に開発されたフレームワークで、設計思想が連続している関係にあります。