1. 定義と概要
匿名加工情報とは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる、元の個人情報を復元することができないようにした個人に関する情報をいいます(個人情報保護法第2条第6項)。作成にあたっては、個人情報保護委員会(個人情報保護法の運用を監督する国の機関)規則が定める5つの措置をすべて満たす必要があります。
5つの措置は、次のように整理されます。
| 措置 | 加工の内容 |
|---|---|
| 1つ目 | 氏名など特定の個人を識別できる記述等の全部または一部の削除・置換 |
| 2つ目 | 個人識別符号(マイナンバーや指紋データのように、それ単独で特定の個人を識別できる符号)の全部削除 |
| 3つ目 | 個人情報とほかの個人情報を連結する符号である連結符号(複数のデータベースにまたがる同一人物の情報をひも付けるための符号やID)の削除 |
| 4つ目 | 年齢や病歴などデータベース内に国内でごく少数しか存在しない特異な記述等(「年齢116歳」のように、国内にごく少数しかいないため個人を絞り込める特徴的な記述)の削除 |
| 5つ目 | そのほかデータベース内の他の個人情報との性質の違いを踏まえた適切な措置 |
これら5つをすべて満たす加工が求められ、基準を満たして適切に加工された匿名加工情報は、個人情報保護法上の個人情報に該当しなくなります。一部の措置だけでは足りない点が、加工基準の要になります。
従来、企業が保有する購買履歴や位置情報などのビッグデータを外部の事業者と共有・取引するには、第三者提供(取得した情報を他の事業者などに渡すこと)に原則として本人の同意が必要という規律が、事実上の壁になっていました。データの利活用を促進しつつ本人のプライバシーを守る両立を図るため、2015年改正(2017年5月30日全面施行)で匿名加工情報の制度が新設され、加工基準を満たした情報は本人の同意なく事業者間で流通できるようになりました。
もっとも匿名加工情報は復元不可能なところまで加工するため、加工の手間が大きくデータの有用性が下がりやすいという面があります。より簡便な加工にとどめて社内分析等に用いる仮名加工情報の制度は、2020年改正(2022年4月1日施行)で新設され、選択肢が加わりました。
2. 試験対策ポイント
匿名加工情報の定義(個人情報保護法第2条第6項)と、加工基準を満たすと個人情報に該当しなくなり本人の同意なく第三者提供ができるようになるという効果は、セットで整理しておきたい論点です。
加工基準は、特定の個人を識別できる記述等の削除・置換、個人識別符号の削除、連結符号の削除、特異な記述等の削除、その他適切な措置の5つで構成されます。一部ではなくすべてを満たす必要がある点も、あわせて整理しておきたいところです。
匿名加工情報を作成した事業者には、情報の漏えいを防ぐ安全管理措置(情報の漏えいや紛失を防ぐために事業者が講じる対策)が義務づけられます。これに加えて、作成時と第三者提供時それぞれに課される公表義務も、匿名加工情報に固有の義務です。さらに、本人を識別する目的で他の情報と照合する識別行為(加工された情報を他の情報と照らし合わせるなどして、元の個人が誰かを再び特定しようとする行為)も禁止されています。
これらの義務は、匿名加工情報が個人情報に該当しなくなった後も情報を適切に管理するために設けられています。
匿名加工情報は復元不可能なところまで加工して第三者提供に用いるのに対し、仮名加工情報は他の情報と照合すれば識別できる程度の加工にとどめて社内分析に用いるという対比は、取り違えやすい点です。
3. 関連概念との比較・相違点
仮名加工情報との最大の違いは、加工の程度と第三者提供の可否です。主な観点ごとに対比すると、次のように整理されます。
| 観点 | 匿名加工情報 | 仮名加工情報 |
|---|---|---|
| 加工の程度 | 元の個人情報に復元できないところまで加工する | 他の情報と照合すれば個人を識別できる程度の加工にとどまる |
| 第三者提供 | 加工基準を満たせば本人の同意なく提供できる | 原則としてできない |
| 想定される利用 | 事業者間でのデータ流通など社外への提供 | 社内でのデータ分析等 |
| 優先される性質 | 情報の有用性より復元不可能性 | 有用性を保ちながら社内での利用にとどめる |
匿名加工情報は元に戻せない加工を条件に社外提供を認める設計であるのに対し、仮名加工情報は元に戻せる状態を保つ代わりに提供先を自社内に限定する設計です。どちらを選ぶかは、情報を社外に渡すのか、社内での分析にとどめるのかで決まります。
個人情報(一般)との関係では、個人情報への該当性が論点です。加工基準を満たした匿名加工情報は個人情報に該当しなくなる一方、その作成・取扱いには安全管理措置・公表義務・識別行為の禁止といった匿名加工情報固有の義務が別途課されます。
個人情報に該当しなくなったからといって、無条件に自由な取り扱いが認められるわけではないという関係です。個人情報の枠から外れることと、義務が一切なくなることは別だと押さえておきたいところです。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
医療・ヘルスケアの分野では、電子カルテやレセプト(医療機関が保険者に提出する診療報酬明細のデータ)を匿名加工情報として加工し、研究機関や他の医療機関へ本人の同意なく提供する取り組みが見られます。個々の患者を特定できない形にしたうえで共有することで、治療実績の分析や創薬研究への活用が期待されます。同意取得の手続きを都度行わずに大規模データを扱えるため、個々の患者に負担をかけずに研究を進められる点が、匿名加工情報を用いる理由です。
交通・都市計画の分野では、交通系ICカードの乗降履歴やGPS(人工衛星を使って位置情報を測定する仕組み)データを匿名加工情報にして自治体や研究機関へ提供する取り組みが代表的です。個人の移動履歴を特定できない形にすることで、渋滞緩和や公共交通の運行計画といった都市計画の分析に役立てられます。個人を特定せずに大量の移動データを扱えることで、プライバシーに配慮しながら都市全体の傾向をつかめる点に、匿名加工情報を用いる意義があります。
小売・マーケティングの分野では、POS(レジでの購買情報を記録・集計する仕組み)データや会員の購買履歴を匿名加工情報化し、本人の同意取得なしに他社との連携分析やマーケティング施策の検討に活用する取り組みが一例です。個々の購買行動を伏せたまま大量のデータを扱えるため、業界を横断した傾向分析に活用できます。個人を特定しない形でデータを扱えることが、他社との連携分析を進めるうえでの前提になります。
5. 要点まとめ
- 匿名加工情報とは、特定の個人を識別できないように個人情報を加工し、元の個人情報に復元できないようにした情報(個人情報保護法第2条第6項)で、加工基準を満たせば個人情報に該当しなくなり、本人の同意なく第三者へ提供できます。
- 仮名加工情報は他の情報と照合しなければ個人を識別できない程度の加工にとどまり、原則として第三者提供はできず、社内でのデータ分析等の利用が中心という違いがあります。
- 匿名加工情報を作成した事業者には、加工基準を満たす加工に加えて、安全管理措置・公表義務・識別行為の禁止といった固有の義務が課されます。
6. 確認問題
問1匿名加工情報とは、特定の個人を識別できないように個人情報を加工し、かつ元の個人情報に復元できないようにした情報をいう。
解答・解説をみる
○ 正しい
個人情報保護法第2条第6項の定義そのものです。復元不可能なところまで加工する点が、仮名加工情報との大きな違いです。
問2匿名加工情報を作成した事業者は、本人の同意を得なくても、その情報を第三者に提供することができる。
解答・解説をみる
○ 正しい
適切な加工基準を満たした匿名加工情報は個人情報に該当しなくなるため、本人の同意を得ずに第三者提供ができます。ただし作成時・第三者提供時にはそれぞれ公表義務が課されます。
問3仮名加工情報は、匿名加工情報と同様に、本人の同意を得ずに自由に第三者へ提供することができる。
解答・解説をみる
× 誤り
正しくは、仮名加工情報は原則として第三者提供が禁止されており、社内でのデータ分析等の利用が想定されています。匿名加工情報との第三者提供可否の違いは、混同しやすいポイントです。

