1. 定義と概要
NDA(Non-Disclosure Agreement、秘密保持契約)とは、契約の当事者間でやり取りする秘密情報について、あらかじめ合意した目的以外に使うことを禁止する契約です(目的外使用の禁止)。あわせて、契約の当事者以外の第三者に伝えることも禁止されます(第三者開示の禁止)。日本語では秘密保持契約または機密保持契約(秘密保持契約とほぼ同じ意味で使われる別の呼び方)と呼ばれ、意味に大きな差はありません。
契約書には一般に、守るべき秘密情報の定義、目的外使用の禁止、第三者への開示禁止、契約の有効期間といった基本項目が盛り込まれます。あわせて、契約終了時の情報の返還・破棄義務や、違反時の損害賠償請求(契約違反などで生じた損害の埋め合わせを金銭で求めること)、差止請求(相手にある行為をやめるよう求めること)といった項目も定められます。
企業間で技術情報や顧客情報などをやり取りする取引はこれまでも存在し、秘密保持契約はそうした取引に先立って結ばれる契約の型として広く使われてきました。AI・データ分野では、本格的な開発に着手する前の段階から、相手企業が保有するデータの中身や業務プロセス、開発するモデルの仕様・精度といった情報に触れる機会が多くあります。
この着手前の段階の呼び名がPoC(概念実証。本格導入前に小規模な範囲で効果や実現性を確かめる取り組み)です。情報が漏れた場合の影響も大きいため、プロジェクトの早い段階で秘密保持契約を結んでおくことの重要性があらためて意識されています。開発が進むほど扱う情報の範囲は広がっていくため、契約を結ぶタイミングを後回しにしないことが背景にあるといえます。
2. 試験対策ポイント
まず整理しておきたいのは、秘密保持契約に盛り込まれる主な項目です。守るべき秘密情報の定義、目的外使用の禁止、第三者への開示禁止、契約の有効期間、契約終了時の情報の返還・破棄義務、違反時の損害賠償請求・差止請求は、あわせて押さえておきたい構成要素になります。これらの項目は、契約書のひな形でも共通して見られる要素です。
秘密保持契約には、誰が義務を負うかによって2つの型があります。名前が似ていて取り違えやすいところなので、義務の負い方と使われやすい場面を対応させて整理します。
| 型 | 義務の負い方 | 使われやすい場面 |
|---|---|---|
| 片務的(契約の当事者のうち一方だけが義務を負うこと)な秘密保持契約 | 一方の当事者だけが秘密情報を開示し、受け取る側だけが秘密保持義務を負う | 業務委託のように一方だけが情報を渡す場面。発注者が業務内容の詳細だけを伝える場面 |
| 双務的(契約の当事者双方が互いに同じ内容の義務を負うこと)な秘密保持契約 | 双方が情報を開示し合い、互いに秘密保持義務を負う | 共同研究のように双方が情報を持ち寄る場面。双方が試作モデルや実験データを持ち寄る共同開発の場面 |
漢字一文字の違いで意味が入れ替わるため、どちらが一方通行の形式なのかは意識して覚えておきたいところです。
AI・データ分野であらためて重要になる理由として、AI開発はPoCの終了後ではなく着手前の段階からデータやモデルの内容に触れる場面が多い点が特徴です。秘密保持契約・機密保持契約は同じ契約類型を指す呼び方の違いであり、どちらを使っても内容に大きな差はありません。呼び方の違いにとらわれず、契約書に盛り込まれる項目の中身を理解しておくことが、あわせて押さえておきたい観点です。
3. 関連概念との比較・相違点
業務委託契約(業務の実施や成果物の完成そのものを依頼する契約)や共同研究契約とは、定める対象が異なります。秘密保持契約は情報の取り扱いだけを定める契約であるのに対し、業務委託契約や共同研究契約は業務そのものの実施や成果物の完成を目的とする契約です。実務では、秘密保持に関する条項がこれらの契約の一部に組み込まれることもあります。
秘密保持契約の内部にも型の違いがあります。片務的な秘密保持契約(片務的NDA)と双務的な秘密保持契約(双務的NDA)の最大の違いは、秘密保持義務を負う当事者の範囲です。
業務委託のように一方だけが情報を渡す場面では片務的な契約が使われやすく、共同研究のように双方が情報を持ち寄って開発を進める場面では双務的な契約が使われやすい傾向にあります。どちらの型を選ぶかは、情報を渡すのが一方だけか双方かという取引の構造によって決まる仕組みです。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
データ分析やAI受託開発の現場では、発注元から提供された顧客データや業務データを使って分析やモデル開発に着手する前に秘密保持契約が締結されます。契約を先に結んでおくことは、提供されたデータの目的外利用や第三者への提供を防ぐ手立てです。受注する側にとっても、契約を先に結んでおくことは、情報の取り扱いに関する責任の所在を明確にすることにつながります。
PoCの場面でも、秘密保持契約は重要な位置づけにあります。本格導入前の検証段階から、相手企業の業務プロセスやシステム構成といった情報に触れるため、PoCの着手前に秘密保持契約を結んでおくことが多いようです。
検証がうまくいくかどうか分からない早い段階から相手の内部情報に触れる点は、AI・データ分野特有の事情といえます。検証の結果によってはその後の取引に至らない可能性もあり、着手前の契約はそうした場合でも情報を守るための備えとして機能します。
共同研究やモデル開発の場面では、複数の企業がそれぞれの技術やノウハウを持ち寄って開発を進める形が一般的です。この場合は一方だけでなく双方が情報を開示し合うため、双務的な秘密保持契約が使われます。
双方が同じ重さの義務を負う形式が選ばれるのは、互いに手の内を明かし合う関係にあるためです。双方の技術情報が混ざり合いながら開発が進むため、どちらに由来する情報かを区別しにくい場面もあり、双務的な形式が持つ意味は小さくありません。
5. 要点まとめ
- 秘密保持契約は、秘密情報の目的外使用の禁止や第三者への開示禁止を定める契約で、有効期間や情報の返還・破棄義務もあわせて定められます。
- 一方だけが秘密情報を開示する片務的な秘密保持契約と、双方が情報を開示し合う双務的な秘密保持契約は、意識しておきたい違いです。
- AI開発はPoCの着手前の段階からデータやモデルの内容に触れる場面が多く、秘密保持契約を結ぶタイミングが重要になります。
6. 確認問題
問1秘密保持契約は、開示された秘密情報を合意した目的以外に使用することや、契約当事者以外の第三者に開示することを禁止する契約である。
解答・解説をみる
○ 正しい
目的外使用の禁止と第三者への開示禁止は、秘密保持契約の中心的な内容にあたります。あわせて、有効期間や情報の返還・破棄義務、違反時の損害賠償請求・差止請求も定められます。
問2片務的な秘密保持契約とは、契約当事者の双方が秘密情報を開示し合い、互いに秘密保持義務を負う形式の契約である。
解答・解説をみる
× 誤り
双方が情報を開示し合い互いに義務を負うのは双務的な秘密保持契約です。片務的な秘密保持契約は、一方の当事者だけが秘密情報を開示し、受け取る側だけが秘密保持義務を負う形式を指します。逆向きの記述は取り違えやすい点です。
問3AI開発では、PoC(概念実証)の終了後ではなく、プロジェクトの着手前に秘密保持契約を締結しておくことが重要とされる。
解答・解説をみる
○ 正しい
AI開発は着手前の段階からデータやモデルの内容に触れる場面が多いため、着手前に契約を結んでおくことが重要とされます。PoCの終了を待ってから契約するのでは遅いという理解が背景にあります。

