1. 定義と概要
ウォード法とは、階層的クラスタリングにおいてクラスタを1つずつ併合していく際に、併合後のクラスタ内平方和(各データと重心との差を2乗して足し合わせた値)の増加量が最も小さくなる2つのクラスタを選んで統合していく手法です。重心とは、クラスタに属するデータの平均的な位置を指します。
ウォード法は最小分散法とも呼ばれ、全データが1つのクラスタになるまで併合を繰り返します。たとえば顧客の購買データにウォード法を適用すると、購買行動が近い顧客同士がまとまりの良いセグメントに分かれます。まとまりの良さを「併合してもばらつきがあまり増えないこと」として数値で測っているわけです。
階層的クラスタリングは、正解データを使わずデータそのものの構造を学ぶ教師なし学習(正解ラベルを使わずデータの構造を学ぶ機械学習の枠組み)に分類されます。従来は最短距離法(単リンク法)や最長距離法(完全リンク法)のように、2つのクラスタに属する代表的な2点間の距離だけで近さを測る手法が使われてきました。
これらの手法は特定のデータ点の位置に結果が引っ張られやすく、クラスタが細長く連なる鎖状効果(チェイン効果。クラスタが細長くつながるように併合されてしまう現象)が生じたり、外れ値(他のデータから大きく離れた値)1点の位置で結合の仕方が大きく変わったりする課題を抱えていました。
そこでクラスタ全体のばらつきに着目し、併合によって失われる情報量(平方和の増加分)を最小化する発想のウォード法が登場し、バランスの良いクラスタを作りやすい手法として広く使われるようになりました。
2. 試験対策ポイント
ウォード法について、まず整理したいのは定義そのものです。クラスタ内平方和、つまり分散の増加量が最小になる2つのクラスタを併合するという内容が中心で、「分散の増加を最小化する」という言い換え表現も同じ内容を指します。この言い換えを別の手法の説明と取り違えないことが、理解の分かれ目になります。
階層的クラスタリングにおけるクラスタ間の近さの定義、いわゆる距離基準には、ウォード法のほかに最短距離法・最長距離法・群平均法・重心法があり、それぞれの計算方法と特徴に違いがあります。どの基準を選ぶかで、できあがるクラスタの形や外れ値への強さが変わってきます。
ウォード法はk-means法(クラスタ数をあらかじめ指定して分類する非階層的なクラスタリング手法)と並んで代表的なクラスタリング手法として扱われますが、両者には階層の有無という違いがあります。k-means法が事前にクラスタ数を指定する非階層的な手法であるのに対し、ウォード法はデンドログラム(樹形図。クラスタが結合していく過程を木の枝のように表した図)を作る階層的な手法である点が対比されます。
ウォード法は計算量が他の距離基準より大きくなりやすいという制約を持つ一方、外れ値の影響を受けにくくバランスの良いクラスタが得られるという利点があり、この長所と短所は表裏の関係にあります。データ数が多い場合には計算負荷が実務上の検討材料になる点も、あわせて知られています。
3. 関連概念との比較・相違点
階層的クラスタリングの距離基準は、クラスタ間の近さをどう定義するかだけが異なり、併合を繰り返す全体の流れ自体は共通しています。主な距離基準を並べると、次のように整理できます。
| 距離基準 | クラスタ間距離の測り方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 最短距離法(単リンク法) | 2つのクラスタで最も近い点同士の距離 | 計算は単純だが鎖状効果で細長いクラスタができやすい |
| 最長距離法(完全リンク法) | 2つのクラスタで最も遠い点同士の距離 | コンパクトな球状になりやすいが外れ値1点に左右されやすい |
| 群平均法 | 全てのデータ点のペアの距離の平均 | 単リンク法と完全リンク法の中間的な性質を持つ |
| 重心法 | クラスタの重心間のユークリッド距離 | 直感的だが結合距離の逆転現象が起こり得る |
| ウォード法 | 併合によるクラスタ内平方和(分散)の増加量 | バランスの良いクラスタを作りやすいが計算量が大きい |
最短距離法は計算が単純である一方、鎖状効果によって細長いクラスタができやすく、外れ値の影響も受けやすいという弱点があります。ウォード法は個々の点の距離ではなく分散という全体量に着目する点で、最短距離法とは対照的な設計になっています。
最長距離法は、単リンク法とは逆に最も離れた点同士を基準にする点が計算方法の違いです。コンパクトな球状のクラスタになりやすい一方、外れ値1点の位置に距離全体が左右されやすいという特徴があります。
群平均法は、2つのクラスタに属する全てのデータ点のペアの距離を平均するため、単リンク法と完全リンク法の中間的な性質を持ちます。外れ値への頑健性は比較的高いものの、ウォード法ほど分散を直接最小化する設計にはなっていません。全ペアの距離を使う分、計算の対象は広くなります。
重心法が用いるユークリッド距離とは、2点間を直線で結んだときの距離を指します。計算は直感的ですが、併合を重ねる過程でデンドログラム上の結合距離が前段階より小さくなる逆転現象(併合を重ねる過程で結合距離の大小関係が入れ替わってしまう現象)が起こり得ます。ウォード法は平方和の増加量という単調に大きくなる量を用いるため、この逆転が起きにくいという関係にあります。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
マーケティングの現場では、購買履歴や属性データをウォード法でクラスタリングし、似た消費行動を持つ顧客層をバランス良くグループ化してターゲティング施策を設計する事例があります。分散を最小化する設計であるため特定の外れ値的な顧客に結果が引っ張られにくく、施策の対象となるセグメントの粒がそろいやすいという意義を持ちます。
商品企画や市場調査の分野では、アンケート回答の傾向をウォード法で分類し、代表的な顧客セグメントを抽出する取り組みが見られます。少数の外れ値的な回答に結果が引っ張られにくい設計であるため、実態に近い顧客像を捉えやすいという効果があります。
医療・ヘルスケアの領域では、患者の検査値データをウォード法でクラスタリングし、症状パターンが近い患者群を識別して治療方針の検討材料にする活用例があります。バランスの良いクラスタが得られる特性は、患者群を過度に偏らせず把握する土台になります。
5. 要点まとめ
- ウォード法は、階層的クラスタリングでクラスタを併合する際にクラスタ内平方和(分散)の増加量が最小になる組み合わせを選ぶ手法で、最小分散法とも呼ばれます。
- 距離基準には他に最短距離法・最長距離法・群平均法・重心法があり、計算方法や外れ値への強さ・弱さがそれぞれ異なります。
- ウォード法はバランスの良いクラスタを作りやすい一方で計算量が大きく、重心法では結合距離の逆転現象が起こり得るという弱点があります。
6. 確認問題
問1ウォード法は、2つのクラスタを併合した際にクラスタ内平方和(分散)の増加量が最小となる組み合わせを選んで併合していく手法である。
解答・解説をみる
○ 正しい
ウォード法の定義そのものです。最小分散法とも呼ばれ、全データが1つのクラスタになるまで併合を繰り返します。
問2最短距離法(単リンク法)は、2つのクラスタに属するデータ点のうち最も近い点同士の距離をクラスタ間距離とするため、鎖状効果により細長いクラスタが生じやすい。
解答・解説をみる
○ 正しい
単リンク法の代表的な弱点として鎖状効果(チェイン効果)が知られています。外れ値の影響を受けやすい点も、あわせて挙げられる特徴です。
問3重心法は、各クラスタの重心間の距離をそのまま結合順に反映するため、デンドログラム上で結合距離が逆転することはない。
解答・解説をみる
× 誤り
正しくは、重心法は併合を重ねる過程で結合距離が前段階より小さくなる逆転現象(非単調性)が起こり得る手法です。ウォード法は平方和の増加量という単調に大きくなる量を用いるため、この逆転が起きにくい点で対照的です。

