1. 定義と概要
多次元尺度構成法(MDS)とは、対象間の距離や類似度の関係をできるだけ保ったまま、低次元、多くは2次元や3次元の空間上に点として配置し、対象同士の相対的な位置関係を可視化する多変量解析の手法です。多くの変数を持つ情報を少ない次元に置き換えるこの性質から、次元削減の一種としても位置づけられます。似ている対象同士は近くに、似ていない対象同士は遠くに配置されます。
具体例として、都市間の移動時間データから地図上の位置関係を再現する用途が挙げられます。もう一つの例が、消費者アンケートで得た商品間の類似度データからブランドの立ち位置を示すポジショニングマップ(商品やブランドの市場での立ち位置を、似ているものが近くにくるように2次元の図で表したもの)を作る用途です。数値の一覧では捉えにくい対象同士の関係が、図の上の距離として直感的に読み取れるようになります。
対象同士の関係性を把握しようとするとき、相関係数(2つの変数がどれだけ同じように変化するかを示す指標)や距離を一覧にした行列をそのまま数値で読み解く方法では、対象数が増えるほど全体の関係性を直感的につかみにくいという課題がありました。
MDSは計量心理学の分野で、人間が感じる類似度のような数量化しにくいデータから対象同士の認知構造を地図のように示す手法として発展してきた経緯があります。当初は心理学的な実験データの分析が中心でしたが、現在はマーケティングリサーチや社会科学のデータ可視化手法として幅広く利用されています。
2. 試験対策ポイント
G検定では、入力データの違いによる計量MDS(距離や類似度を実際の数値として扱うMDSの種類)と非計量MDS(類似度の大小関係、順序だけを手がかりにするMDSの種類)の2種類に分かれる点が重要な論点です。計量MDSは距離データをそのまま数量として扱うのに対し、非計量MDSは順序尺度で評価された類似度、たとえば「AよりBの方が似ている」といった順位関係のデータを扱います。
アンケート調査のように厳密な数値で答えにくい感覚的な評価は、非計量MDSの入力に向いています。2種類の対応関係を、入力データの面から並べておきます。
| 種類 | 扱う入力データ | 向いているデータの例 |
|---|---|---|
| 計量MDS | 距離や類似度を実際の数値として扱う | 数量としてそのまま得られる距離データ |
| 非計量MDS | 類似度の大小関係、順序だけを手がかりにする | 「AよりBの方が似ている」というアンケートの感覚的な評価 |
入力データの尺度は違っても、距離や類似度の関係を保ったまま低次元に配置するという目的は、どちらの種類にも共通しています。
配置の当てはまりの良さを示す指標としてストレス値(低次元に配置した結果が元の距離関係をどれだけ正確に再現できているかを示す数値。小さいほど当てはまりが良い)が使われ、この値を小さくするように配置を反復的に調整する点も押さえておきたいポイントです。
ストレス値は一度の計算で最適な配置が決まるわけではなく、初期の配置から少しずつ点の位置をずらしながら値を下げていく手順で求められます。
距離としてユークリッド距離(2点間の直線距離のこと。三平方の定理で計算する距離)を用いる古典的MDS、主座標分析とも呼ばれる手法は、数学的にはPCAと等価になるケースがあるという関係性にも触れておきます。この関係は、MDSとPCAがまったく別々の手法ではなく、条件によって同じ結果に行き着く場合があることを示しています。
加えて、次元削減・可視化の手法として主成分分析やt-SNE法とセットで比較され、それぞれの入力データの種類や線形・非線形性、保持する関係の違いが分かれ目です。この3手法の対比は、G検定の可視化分野で混同しやすい組み合わせです。
3. 関連概念との比較・相違点
主成分分析との最大の違いは、入力データと保持する関係にあります。主成分分析は、データのばらつき(分散)が最も大きくなる方向を軸として、少ない次元でデータを表現する線形手法です。元のデータそのものから分散が最大になる方向を探すため、ユークリッド距離を使う古典的MDSとは数学的に等価になる特殊なケースがあります。
一方でMDSは、元のデータではなく距離や類似度の行列そのものを入力にできる点が異なります。ユークリッド距離に限らない非ユークリッドな類似度データも扱えるため、数値化しにくい感覚的な類似度からでも配置を作れるという柔軟さがあります。
t-SNE法との違いは、線形か非線形かという点と、保持する関係のスケールにあります。MDSは対象全体の距離関係、大域的構造をできるだけ保つのに対し、t-SNE法は近いデータ同士の近傍関係、局所的構造の再現に重点を置いた非線形かつ確率的な手法です。そのため、t-SNE法はクラスタの分離を得意とする一方で、クラスタ間の距離感は保持されにくいという性質があります。
混同しやすい3手法を、着目するデータと重視する関係という2つの軸で並べると次のようになります。
| 手法 | 着目するデータ | 重視する関係・手法の性質 |
|---|---|---|
| MDS | 距離や類似度の行列 | 対象全体の距離関係、大域的構造を保つ |
| 主成分分析 | 元のデータそのもの | 分散が最も大きくなる方向を軸にする線形手法 |
| t-SNE法 | 近いデータ同士の近傍関係 | 局所的構造の再現に重点を置く非線形かつ確率的な手法 |
MDSとPCAの違いが入力データの形式にあるのに対し、MDSとt-SNE法の違いは保持する構造のスケールにあるという対比で整理できます。どの対象同士がどれだけ離れているかという全体の距離感を重視するならMDS、似た対象のかたまりを見つけたいならt-SNE法という使い分けの目安にもなります。
4. ビジネス・実務での活用シナリオ
マーケティングリサーチの分野では、商品やブランド間の類似度に関するアンケートデータをもとにポジショニングマップを作成し、自社商品と競合商品の相対的な立ち位置を可視化する場面でMDSが使われます。数値の一覧表だけでは把握しにくい相対的なポジションが、地図のような図に落とし込まれることで一目で分かるようになります。担当者同士で商品の立ち位置について議論する際にも、共通の図を土台にすることで認識のずれを減らせます。
商品企画・新商品開発の現場では、プロダクトマップ(ポジショニングマップと同様に、商品同士の位置関係を図に示したもの)上で既存商品が少ない領域を見つけ、新商品のコンセプト開発の手がかりにする活用が見られます。競合が少ない空白領域を図の上で特定できれば、新しい商品の方向性を検討する材料になります。すでに似た商品がひしめく領域を避けて企画を立てられるという点で、限られた開発資源を無駄にしない判断につながります。
社会科学や心理学の分野では、人が感じる感覚的な類似度のような順序尺度のデータ、非計量MDS向きのデータから、対象に対する認知構造を地図として可視化する用途があります。数値化しにくい人の感覚的な判断であっても、順位関係さえ分かれば配置を作れる点がMDSの特徴です。実験参加者ごとにばらつきやすい主観的な評価を、一つの図として統合して示せることが、この分野でMDSが使われ続ける理由になっています。
5. 要点まとめ
- 多次元尺度構成法(MDS)は、対象間の距離・類似度関係を保ったまま低次元空間に配置し可視化する手法で、計量MDS(数量的な距離データを扱う種類)と非計量MDS(順序尺度の類似度データを扱う種類)に分かれます。
- 配置の当てはまりはストレス値で評価され、ユークリッド距離を使う古典的MDSはPCAと数学的に等価になる関係にあります。
- PCAは分散を最大化する線形手法、t-SNE法は近傍関係を保つ非線形手法という違いがあり、MDSは距離・類似度行列から出発して対象全体の関係を保つ点で両者と対比されます。
6. 確認問題
問1多次元尺度構成法(MDS)では、似ている対象同士は低次元空間上で近くに、似ていない対象同士は遠くに配置される。
解答・解説をみる
○ 正しい
対象間の距離・類似度の関係をできるだけ保った配置を作ることがMDSの定義そのものです。この性質は計量MDS・非計量MDSのどちらにも共通します。
問2非計量MDSは、対象間の類似度が数量的な距離データではなく、順序尺度で評価されている場合に用いられる。
解答・解説をみる
○ 正しい
距離データをそのまま扱う計量MDSとの違いは入力データの尺度にあります。非計量MDSは、順序関係のみが分かる類似度データを扱う点が特徴です。
問3t-SNE法はMDSと同様に、対象全体の距離関係、大域的構造を保持することに重点を置いた手法であり、両者の性質はほぼ同じである。
解答・解説をみる
× 誤り
正しくはt-SNE法は近いデータ同士の近傍関係、局所的構造の再現に重点を置く手法で、大域的な距離関係の保持は苦手とされます。MDSは対象全体の距離関係を保つ点でt-SNE法と対照的な性質を持ち、両者を同一視する記述は逆向きの説明にすり替えた例です。

