ベクトル自己回帰モデル(VARモデル) (G検定)

ベクトル自己回帰モデル(VARモデル)

1. 定義と概要

ベクトル自己回帰モデル(VARモデル)とは、複数の時系列変数を対象に、各変数の現在の値を「その変数自身の過去の値」と「システム内の他のすべての変数の過去の値」の線形結合で説明する多変量の時系列モデルです。

単一の変数のみを扱う自己回帰モデル(ARモデル)とは、ある時点の値をその変数自身の過去の値から予測する単変量の時系列モデルを指します。VARモデルは、このARモデルを複数の変数(ベクトル)に拡張したものにあたります。代表的な例として、GDP成長率・インフレ率・失業率のように相互に影響し合う複数の経済指標をまとめてモデル化する場面が挙げられます。

従来のARモデルは、1つの時系列変数だけを自身の過去値から予測する手法です。しかし現実の経済現象や気象現象は、複数の要因が互いに影響を及ぼし合いながら変化します。

個々の変数を別々にARモデルで予測すると、金利が変動すると物価にも影響し、その物価変動が再び金利に影響するといった変数間の相互作用を見落とすことになります。そこでARモデルを複数変数に拡張し、変数どうしの相互依存関係をまとめて捉えるVARモデルが使われるようになりました。

2. 試験対策ポイント

G検定における論点のひとつは、VARモデルがARモデルを複数変数(ベクトル)に拡張したモデルであるという点です。各変数の現在値は、自身の過去値だけでなく、システム内の他のすべての変数の過去値の線形結合によって説明されます。

モデルを組む際には、何期前までさかのぼるかを示すラグ(現在の時点からどれだけ過去にさかのぼるかを示す期間)の数、すなわち次数pを指定する必要があります。変数の数nとラグの次数pが増えると、推定すべきパラメータ(モデルが学習によって決める数値)の数はn(np+1)個の規模で急増します。あわせて、安定した推定に必要なデータ量も増加するという制約があります。

VARモデルは将来予測だけでなく、変数間の関係性を分析する用途でも使われます。変数間の因果関係(ある事象が別の事象の原因になっている関係)を調べる手法には、グレンジャー因果性検定(ある変数の過去の値が別の変数の予測に役立つかどうかを統計的に調べる検定)があります。また、ある変数へのショックが他の変数へどう波及するかを分析する手法には、インパルス応答関数(ある変数に一時的な変化が起きたとき、その影響が他の変数へどう波及していくかを時間を追って示す分析手法)があります。

この2つは着目する問いが異なるため、次のように対応づけて整理すると混同しにくくなります。

手法 着目する問い
グレンジャー因果性検定 ある変数の過去の値は、別の変数の予測に役立つか
インパルス応答関数 ある変数に起きた一時的な変化は、他の変数へどう波及していくか

いずれもVARモデルの応用として合わせて見ておきたい手法です。適用例としては、GDP成長率・インフレ率・失業率などの経済分析や、金融・気象分野のように、複数の指標が相互に影響し合う現象が代表的です。こうした複数変数の相互依存関係を扱う場面でVARモデルが選ばれる理由まで理解しておくと確実です。

3. 関連概念との比較・相違点

自己回帰モデル(ARモデル)との最大の違いは、扱う変数の数にあります。ARモデルは1つの時系列変数のみを、自身の過去値の線形結合で説明する単変量モデルです。これに対しVARモデルは、複数の時系列変数を対象に、各変数を自身と他のすべての変数の過去値で相互に説明し合う多変量モデルという関係にあります。ARモデルの推定式が1本であるのに対し、VARモデルは変数の数だけ連立した推定式を持つ点も異なります。

重回帰分析(複数の説明変数から目的変数を予測する統計的手法)との違いは、時間方向のラグ構造を持つかどうかにあります。重回帰分析は、同時点の複数の説明変数(予測に使う入力側の変数)から目的変数(予測したい結果側の変数)を予測する静的なモデルです。

一方でVARモデルは、各変数自身の過去の値を説明変数に含む動的なモデルで、時間の経過に沿った変数間の波及関係を扱います。同時点のデータだけで完結する重回帰分析に対し、VARモデルは時間軸に沿った相互作用の分析に向いています。

3つのモデルの関係は、扱う変数の数と時間方向の扱いという2つの軸で並べると見通しがよくなります。

モデル 扱う変数の数 時間方向の扱い
ARモデル 1つ(単変量) 自身の過去値を使う
VARモデル 複数(多変量) 自身と他の変数の過去値を使う
重回帰分析 複数(説明変数) 同時点のデータで完結する

同じ「複数の変数を扱う」手法であっても、時間軸に沿った過去値を説明に使うかどうかで役割が分かれます。この軸の違いが、VARモデルを選ぶ場面を見極める手がかりになります。

4. ビジネス・実務での活用シナリオ

マクロ経済分析では、GDP成長率・インフレ率・政策金利といった複数の経済指標を同時にモデル化し、ある指標の変化が他の指標へどう波及するかを推定します。単独の指標を個別に予測するよりも指標間の連鎖的な影響を組み込んだ分析ができ、金融政策の効果を検証する場面で用いられます。政策金利の引き上げが物価や成長率にどの程度の時間差で波及するかを追う分析には、複数変数を同時に扱えるVARモデルの構造が合っています。

金融・市場分析の分野では、複数銘柄の株価やマクロ指標(為替・金利など)の相互依存関係をVARモデルで捉えます。ある市場の変動が別の市場へどのように伝わるかを把握できれば、市場変動のリスク分析や短期的な値動きの予測に役立てられます。

気象・環境分析では、気温・湿度・風速といった複数の観測データを組み合わせ、相互の影響を考慮したうえで将来の値を予測します。個々の要素を切り離して予測するよりも、要素間のつながりを踏まえたモデル化によって、実際の気象現象に近い予測につながります。気温と湿度、風速は互いに関係しながら変化するため、単独の変数だけで将来値を求めるモデルでは、こうした複合的な変化をとらえきれません。

5. 要点まとめ

  • VARモデルはARモデルを複数変数に拡張した多変量の時系列モデルで、各変数を自身と他のすべての変数の過去値で説明します。
  • 変数の数やラグの次数が増えるとパラメータ数が急増し、安定した推定に必要なデータ量も増えます。
  • グレンジャー因果性検定やインパルス応答関数によって、変数間の因果関係や波及効果を分析できます。

6. 確認問題

問1VARモデルは、自己回帰モデル(ARモデル)を複数の変数に拡張したモデルであり、各変数を自身の過去値と他のすべての変数の過去値の線形結合で説明する。

解答・解説をみる

○ 正しい

VARモデルの定義そのものです。ARモデルが単一の変数のみを扱うのに対し、VARモデルは複数の変数がベクトルとして互いの過去値から説明し合う点が特徴です。

問2VARモデルで扱う変数の数やラグの次数を増やしても、推定に必要なパラメータ数は変化しないため、少ないデータ量でも安定して推定できる。

解答・解説をみる

× 誤り

正しくは、変数数nとラグ次数pが増えるとパラメータ数はn(np+1)個の規模で急増し、安定した推定に必要なデータ量も増加します。パラメータ数が変数やラグに依存しないという記述が誤りです。

問3VARモデルでは、ある変数に生じたショックが他の変数へどのように波及していくかをインパルス応答関数によって分析できる。

解答・解説をみる

○ 正しい

インパルス応答関数は、ある変数への一時的な変化(ショック)が他の変数に時間をかけてどう波及するかを示す分析手法です。グレンジャー因果性検定と並んで、VARモデルの応用にあたります。